ショルツ独首相の支持率、落ちる

オラフ・ショルツ首相のこれまでの政治、取り組みに満足しているドイツ人はわずか35%に過ぎない。ドイツ国民の大多数は、ショルツ首相が自身の政策をもっとよく説明すべきだと考えている。首相の仕事に満足している国民は少数派であり、その数は減少傾向にある。

党創立160年を迎えたSPD(中央・ショルツ首相)SPD公式サイトから、2023年5月23日

これは世論調査機関ForsaがRTL/ntvのトレンドバロメーターのために実施した調査結果だ。調査期間は5月31日から6月1日の両日、1001人を対象に質問したものだ。

ショルツ首相の政治に満足している値は今年2月の42%よりも低い。ショルツ首相が昨年3月初め、連邦議会で「ツァイテンヴェンデ」(時代の移り変わり)という表現を最初に語った演説直後、ドイツ人の60%はショルツ氏の業績に満足していたが、その15カ月後、60%から35%に急落したわけだ。

ショルツ首相が主導する連立政権は社会民主党(SPD)、環境保護政党「緑の党」、そしてリベラル派政党「自由民主党」(FDP)の3党から成るドイツ連邦初の3党連立政権だ。政党のカラーから信号機政権と呼ばれてきた。政治信条が異なる3党で結成されたショルツ政権は発足当初から政権の安定性について懸念の声があった。

信号機連合は2021年12月8日に発足。それから1年半が経過した現在、ドイツ人の64%はショルツ首相の仕事にあまり満足していないか、全く満足していない。おおむね満足しているのはSPDの支持者(76%)と、「緑の党」の支持者(54%)だけだ。一方、FDPの支持者の大多数(77%)は、ショルツ首相の取り組みに満足していない。発足当初から危惧されていた3党連立政権の亀裂が既に生じているわけだ。

ちなみに、野党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の支持者は76%がショルツ首相に不満足、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)支持者になるとほぼ100%、不満足だ。SPD支持者の中でも「次回の選挙ではSPDには投票しない」という声が増えているという。ドイツ人の半数(52%)は、信号機連合が2025年の任期終了まで続くと考え、38%はその前に崩壊すると予想している。

ところで、ショルツ首相は政権発足直後、メルケル前政権の政策を引き継ぎ、新型コロナウイルスの対策に専心する予定だったが、ロシアのプーチン大統領が昨年2月24日、ウクライナに軍事侵攻して以来、ウクライナ支援が最大の政権の課題となっていった。

ドイツは戦後、急速に経済復興し、世界の経済大国となったが、国防・安全保障問題では常に慎重なスタンスを取ってきた。ウクライ支援では他の欧州諸国に先だってウクライナに主用戦車を供与することに強い抵抗があった。ナチス・ドイツ政権の戦争犯罪問題は戦後のドイツ政権のトラウマとなってきたこともあって、ドイツは武器供与問題では単独では決定しない、という原則を貫いてきた。

しかし、ロシアとの戦いが激しくなり、ウクライナ側からの強い要請を受けてドイツは徐々にだが、その政策を変更していった。軍事費の大幅な増額を皮切りに、最初はヘルメット、そして軽武器、そして重火器までウクライナに支援してきた。パトリオットとIRIS‐T防空システムに加えて、これまでに18両のレオパルト2A6主力戦車、40両のマーダー歩兵戦闘車、34両のゲパルド対空車両をウクライナに納入してきた。ショルツ首相は欧州の盟主ドイツの指導者としてウクライナ支援では最前線に立って奮闘したきた。ドイツ外交がウクライナ戦争で目覚めてきたわけだ。

ショルツ首相は外交面ではポイントを挙げたことに間違いがないが、外交でのポイントは長く続かないものだ。ウクライナ戦争が長期化する傾向が見られ出した頃から、対ウクライナ支援への国民の不満の声が聞かれだした。ウクライナ戦争の影響もあって、エネルギー価格、物価、住居代の高騰などで国民の日常生活は厳しくなってきたからだ。

ショルツ政権が脱原発を実施し、再生可能エネルギーへの転換などを実施してきた中、多くの国民は未来に対して不安、不確実性を一段と感じ出してきた。先の世論調査によると、国民の60%は未来に対して不安を感じている。特に、旧東独国民はより懸念を感じているという結果が出ている。

ショルツ首相はウクライナ支援問題でポイントを挙げる一方、国内問題で国民からの批判が高まってきている。そのトレンドは先の世論調査結果でも明らかに読み取れる。ショルツ首相のSPDと「緑の党」への国民の支持率が低下する中で、CDU/CSUが断トツでトップを走る一方、AfDの支持率が今年初め13%から、ここにきて17%と上昇している。ショルツ連立政権は3党の支持率を合わせても50%を大きく下回っていて、既に少数派政権に落ちてしまった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。