サラリーマンと起業家はこうも感覚が違う

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

仕事を通じて、色んなビジネスマンと関わってきた。立場が違えば属性も違う。サラリーマンと自営業者とでは様々な点で異なることを肌感覚で学んできたつもりだ。今では初対面で会話すればなんとなく「この人はサラリーマン(自営業者)だな」とわかるようになった。

今回取り上げるのは統計データなど客観的根拠が何もない、筆者の体験談ベースで両者の違いを話したい。もちろん、個別の例外はいくらでもあるがそれを考慮すると話の収拾がつかなくなるので、あくまで傾向の話と理解して読み進めてもらいたい。

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金銭感覚

サラリーマンと自営業者の最大の違いは金銭感覚だろう。

自営業者になると、定額で毎月給与をずっと受け取るという感覚がなくなる。よしんば、会社を起業して社長となり、毎月定額の役員報酬を受け取る立場になった人でも、法人の売上が上下したり、税金を考慮して次年度の役員報酬を調整することは普通にある。「大体同じ給与水準で10年、20年受け取り続ける資金繰りを想定」という感覚がないのだ。良くも悪くも、上と下、どう動くかはまったく分からないのである。

さらに自営業者には経費の概念があるので、必要な仕事道具には積極投資をする人も多い。そして税金を強く意識するようになり、「今年は利益が出すぎたので古かった社内のパソコンや機材、備品を買い直そう」とか「経費になる合宿付き、参加費数十万円のビジネスセミナーへ参加しよう」といったお金の使い方をする。

だが経費になる事業投資に積極的に使う人でも、プライベートの生活は意外なほど質素な人が少なくない。というか、ビジネスにフルコミットする自営業者ほど、プライベートを充実させるための贅沢に興味がなくなってしまう人が多いと思っている。プライベートより仕事の方が楽しいという感覚なのだ。

自分自身、サラリーマン時代と今とではまったくと言っていいほど金銭感覚が変わった。昔はとにかく貧乏性であらゆる場面で「お金を使うこと自体に苦痛を感じる」ケチな性質だったが、今では仕事に関する出費に惜しむことはほぼなくなった。必要なものは値段を見ないで買う。同時に、衝動買いはゼロになり不要なものはたとえ無料でもいらないという感覚に変わった。

曜日感覚

自分はこれまで土日や連休が好きな自営業者を一人も見たことがない。社長やフリーランスとの雑談をする中では「うわー、もうすぐゴールデンウィークか。困るなあ。それまでにこの仕事を絶対終わらせないと」みたいな話が飛び出す。それは自分自身もそうだ。昔は月曜日が一番嫌いだったが、今は月曜日が一番の楽しみという感覚に変わった。

休日になると企業や役所が休みに入るので、クライアントの絡む仕事が全部止まってしまう。さらに子供が家にいるので平日のように仕事に集中できず、かといって公園や屋内施設、食事に連れて行ってもどこも渋滞と混雑していて子供を遊ばせにくいという感覚がある。仮に自分が独身で自営業者であっても、連休をありがたいとは感じないだろうというのは想像がつく。遊びにいくなら平日がいいと考えるからだ。

その逆に自分がサラリーマン時代の頃はゴールデンウィークや年末年始、その他の連休はまさしく天国のように感じていた。大学生や社会人の頃からレジャーや旅行に出かけることは昔からあまりしなかった。連休が到来したら勉強か仕事に時間にあて、まとまった休みの時間を使って平日は細切れでしかできなかった活動を思う存分に頑張るという感じだった。

リスクに対する態度

肌感覚でいうと、自営業者はリスク許容度が高く、サラリーマンはリスクを忌避する傾向があると感じる。もちろん、サラリーマンにも色んなタイプがいて同僚の中に「子供が生まれた後に長年勤めた仕事をやめ、ビジネススクールで難関資格を取ってすぐ転職。正直、無職で勉強に集中していた期間のプレッシャーは尋常じゃなかった」といったパワフルな人もいたが、これはほぼ例外で基本的に不確定要素を避ける人は多かったように思う。

一方自営業者の方が事業リスクの許容度は高いだろう。なぜなら今と同じことを続けていたら必ず売上が先細りしていく運命にあり、元々リスクを取らないと未来がないという立場にあるからだ。

今やっている仕事はある種、幻想みたいなもので状況が変われば消えることもあり得ると「覚悟」を持っている人は自営業者に多いと思っている。自分の知る酪農家は昨今の牛乳危機に大変な思いをしているが、インフレと円安前は極めて安定的に大きな収益を享受していた。

こうしたビジネス環境が急変するような事例を目の当たりにすると「目先のリスクを取らねば、未来でもっと大きなリスクに晒される」という感覚になるのだ。だから果敢に変化を受け入れ、挑戦しようという気概が生まれる。これが板につくと変化しない日々が続くことに対して、逆に大きな不安を覚えるようになる。

さらに自営業者はリスク許容度が比較的高い理由には「常に最悪を覚悟しているから」という事情もあるかもしれない。現在ビジネスが非常にうまくいってる社長と雑談をすると「まあ最悪、会社をたたむことになっても派遣かバイトして食いつなぐわ」みたいな冗談か覚悟か分からないことを言う人が結構いる。最悪を覚悟しているからこそ、多少のリスクを受け入れ攻めることができるというイメージだ。

細かいことを言えば他にも書ききれないほど違いはあるが、サラリーマンも自営業者も同じ人間である。だが置かれた立場が違うとまるで別人物のように振る舞いが変わってしまう。自分自身、サラリーマン時代の個人的な日記を読み返すと、今の自分は今とはまったく違う人格だったように思えて驚くことがある。人間、置かれた環境で全然違う人格になる生き物なのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。