ベストプラクティスの追求で利益相反のおそれを一掃する

企業年金資産の運用委託先の選定において、母体企業と親密な関係にある金融グループの投資運用業者が優先されることは、利益相反のおそれがあるにもかかわらず、日本の現状においては、蔓延している。この事態は、監督官庁である厚生労働省によって放置されてきたが、金融庁は、異なる見地から、問題視してきた。

123RF

例えば、2017年4月に、当時の金融庁長官であった森親信氏は、講演のなかで、企業年金の運用委託先として母体企業の親密金融グループに属する投資運用業者が選ばれている事態について、「フィデューシャリー・デューティーの観点に照らして問題があります」と述べている。ここでフィデューシャリー・デューティーというのは、英米法の概念であって、日本法の忠実義務を超えて最善を尽くすことまでをも求める高度な忠実義務のことである。

金融機関に最善を尽くすことを求めるのは近時の金融庁の一貫した方針で、それを金融庁はベストプラクティスの追求と呼んでいる。なぜ金融庁がベストプラクティスの追求を重視するかというと、ベストプラクティスを追求する競争がない限り、金融機能が高度化しないからである。

投資運用業者にして、自己の運用能力によってではなく、自分が属する金融グループと母体企業との親密関係によって選ばれるとしたら、どこに運用能力を磨く必要があるというのか。そして、大手の投資運用業者の多くが金融グループに属する現実のなかで、投資運用業界全体として、投資の技術を切磋琢磨する真の競争なくして、どうして能力の向上が図られるのか。

投資信託にも、利益相反のおそれは蔓延している。投資運用業者と販売会社が同一の金融グループに属して、投資運用業者の運用能力ではなく、販売会社の販売能力によって事業が営まれている限り、運用能力の向上など期待し得ないわけである。

金融の主舞台を資本市場に移そうとしている金融庁にとって、市場機能の重要な担い手たる投資運用業者の能力の向上は極めて重要な課題である。なぜなら、優れた運用は、企業年金や投資信託の資産価値上昇をもたらし、国民資産形成を通じた安定消費の基礎となって経済の持続的成長に貢献するだけでなく、資本市場規律の徹底によって投資先企業の経営の革新を促し、産業構造改革による経済成長の起爆剤ともなるからである。

故に、運用能力強化の前提として、投資運用業にかかわる利益相反のおそれを一掃しなければならないのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行