動かない植田総裁に催促の声
東京株式市場で週明けも勢いが止まらず、13日、株価はさらに上昇し、終値は580円高で3万3000円台でした。3万円を超えた頃から、外人投資家が主導するバブル発生との見方もあり、高値警戒感が急速に強まってきました。
それにもかかわらず、株価は3万1000円台、3万2000円台と上昇し、32年ぶりの高値を記録しました。年初から17%も上がり、さすがに3万3000円台は無理だろうとの予想が強まっていたのに、警戒線を突破しました。
知人の元財務省高官は「日銀が保有する巨額のETF(上場投資信託)を売り、売却益を国家予算に回す絶好のチャンスだ。膨張を続けるバブルを冷やす効果もある。日銀はなぜ動かない」のかとの説を唱えています。
現在の3万3000円という水準はバブルではないという見方もありましょう。「日本はデフレ脱却できる」、「海外資源高と円安による物価上昇に押され賃金も上昇してきた」、「地政学的理由、米中対立の激化で、中国市場が忌避されている」、「ドル建てでみた日本の株価は割安」、「米国市場の金融不安から日本市場での運用が相対的に有利になっている」などなど。
そういう背景はあるでしょう。それでも私は、実体経済を離れたバブル状態にあると考えます。新聞もそうなのでしょう。13日の新聞夕刊は、日経も読売も、「3万3000円に続伸」は小さな目立たない扱いでした。
日銀はデフレ脱却のために、国債を買い、禁じ手のETFという株も購入してきました。日銀の国債保有残高は560兆円、ETFは50兆円台(簿価では36兆円)という他国には例をみない規模です。
総裁が黒田東彦氏から植田和男氏に4月、代わり異次元の大規模金融緩和からの転換が期待されているのに、「過去20年の金融緩和政策を1年半かけて検証する」といったきり、動きません。
急激に変化する時代、特に金融市場の予測しがたい変化の時代に「1年半かけて検証する」とは、学者志向の修正が抜けないのです。政策当局のテンポに市場が合わせてくれるとでも思いこんでいるのでしょうか。
そんな学者肌の新総裁に、頭を切り替えるチャンスが降って沸いてきたのです。バブルといってもいい株高は、政策転換する絶好のチャンスなのです。金融緩和の転換を望まない人たちも、「バブル潰し」ならば文句をいえまい。日銀にとって、このチャンスを生かさない手はない。
平時なら緩和政策を転換して株価が急落すると、政治的な圧力がありましょう。バブルの異常な高値からの下落は影響は大したことはない。バブルを放置し、破裂した時のほうが怖い。過去のバブル崩壊時はみなそうです。年金基金などは超低金利の環境下で、株式の運用比率を引き上げています。バブルの高値からの株価下落なら、納得するでしょう。
政府も少子化対策の財源確保(年3兆円半ば)に苦渋しています。防衛費のGDP比2%への引き上げ(年5兆円)でも、「増税は25年度以降する」との先送りを決める方向です。
日銀保有のETFの含み益は10数兆円でしょうから、バブルのうちに売却し、売却益を日銀を通じて国庫納付金の形で、財政支出に回せばいいのです。
株を中央銀行が直接買うような主要国はありません。日銀による異常な異次元緩和策を正常化する第一歩にすべきなのです。
金融調節のYCC(長短金利操作付き質的・量的金融緩和)も、長期金利(10年物国債)をコントロール(上限を0.5%に決めている)するような部分から外していくべきでしょう。消費者物価が3-4%まで上昇しています。日銀の物価目標2%を超えているのですから、あれこれ専門的な理屈をこねず、基準金利を引き上げて行くべきでしょう。
バブルめいた株高、ETF売却益による財政支援、物価3-4%上昇、欧米は金利高の見通しなど、植田日銀が方向転換する条件が整ってきたのです。「1年半は検証」などいう学者志向から転換する時です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。