NHK総合テレビが「ヒューマンエイジ 人間の時代」と題した「大型シリーズ」番組を、日曜日のゴールデン枠で放送している。番組公式サイトはこう謳う。
繁栄を極める一方で、地球環境に危機をもたらしている「人間」。それでも「もっと豊かに」という欲望を止められない。人間とは一体何者か?この先どこへ向かうのか?「ヒューマンエイジ」は、そんな人間の謎にあらゆる分野の英知を結集して迫り、未来を希望に変えるカギを探す大型シリーズ。
その「第1集 人新世 地球を飲み込む欲望」の初回放送日は6月11日。
「人間の際限ない欲望」の正体。最新科学で人間ならではの欲望の仕組みが見えてきた。それを乗り越え、破滅を回避する手だてとは?(同前)
そのような「手だて」が簡単に見つかるとは思えないが、そこはいったん目を瞑ろう。問題は、「戦争 なぜ殺し合うのか」と題した第2集である(6月18日初回放送)。
歴史上記録に残る戦争や紛争を調べ上げると、その数1万回以上。総死者数は1億5千万人にものぼる。今もやまない戦火。なぜ人間はこれほど戦争にとりつかれたような生き物になってしまったのか。最新研究から、人間の「仲間と助け合う本能」が、同時に戦争への衝動を生む皮肉なメカニズムが見えてきた。それを乗り越えて、平和な世界へ向かうことはできるのか。俳優・鈴木亮平が多様な分野の第一線の専門家と共に探求していく。(同前)
番組は、とくに「オキシトシン」(いわゆる幸せホルモン)に着目しながら、「人間の『仲間と助け合う本能』が、同時に戦争への衝動を生む皮肉なメカニズム」を解説していた。はたして、それを「皮肉」とみなすべきか否かは、さておく。
いずれにせよ、番組が解説したとおり、あくまでも人間の「本能」なのだ。なのに、「それを乗り越えて、平和な世界へ向かうことはできるのか」と問いかけるのは、どうかしている。
それ以前に、番組が「あらゆる分野の英知を結集して迫り、未来を希望に変えるカギを探す大型シリーズ」と大風呂敷を広げたのも、どうか。
もし万一、そんな「カギ」が見つかるのなら、警察も裁判所も自衛隊も不要となろう。少なくとも私は、NHKの夢想論より、以下の古典的名著に得心する。
人間は戦争を止められない。止められないから軍隊を必要とする。この地上から軍隊が無くなる日、それはすべての人間が全くの獣か、それとも全くの天使になる日である。(中略)人間の中には天使と獣がいる。獣しかいないのなら、或は天使しかいないのなら、人間は決して殺し合ひをしないであろう。
(松原正『我々だけの自衛隊』展転社・原文の歴史的仮名遣いママ)
同番組は冒頭、俳優の鈴木亮平さんが、こうナレーションした。
今も各地で激しい争いが続くなか、反戦と平和への願いを訴える人々。その一方で生み出され続ける新たな兵器。次の戦争の備えが、もう始まっている。
最初は、ウクライナなどの戦闘場面を流しながら。続けて、「2023年3月 千葉 幕張 防衛・セキュリティー総合展示会」(番組テロップ・以下同)の映像を流しながら、上記のナレーションで視聴者を導入した。
展示会場には、多数の自衛官の姿も映っていた。加えて番組は、熱心に装備品の説明を受けている、陸上自衛隊の制服を着た3名の幹部自衛官をアップで映した。
それだけではない。「ウィンドーショッピングですね」と哄笑する「来場者」や、「標的を簡単に〝料理〞できますよ」と説明する「軍需企業」の職員らを映しながら、「いったい私たち人間とは何者なのか?」と問いかけた。
じつに悪質な印象操作としか、言いようがない。俗悪なパシフィズム(反戦反軍平和主義)が番組を覆っていた。
ちなみに、スタジオには「専門家」として、「人間の社会や文化のあるべき姿を模索」しているらしい「総合地球環境学研究所 所長」の「山極壽一さん」が登場。番組は触れなかったが、山極所長は、軍事研究を全否定した日本学術会議の第24期会長であり、同方針の中核的存在である。
番組後半には、「世界の紛争地で平和構築を目指す」「認定NPO法人REALs理事長」の「瀬谷ルミ子さん」もスタジオに登場した。TBS「サンデーモーニング」のコメンテーターとしても知られ、『職業は武装解除』(朝日文庫)と題した自著もある。
他に、「古代エジプトの社会構造を研究」する「名古屋大学高等研究院 准教授」の「河江肖剰さん」を含む以上3名の人選が、放送法の求める編集姿勢(公平など)に合致しているだろうか。
シリーズ2回目にして、はや、この有り様。先が思いやられる。