「退屈」を敵から味方に変える方法

黒坂岳央です。

New York Timesに興味深い記事が掲載された。簡単に内容をいうと夏休みなどの長期休み中、親はむやみに子供から退屈を奪ってはいけない。無理に勉強やアクティビティなどを詰め込んでごまかすべきではない。なぜなら退屈は敵ではなく、むしろ味方だからというものである。

これは子を持つ親だけでなく、大人自身についても言える。とかく忙しいと言われる現代社会だが、暇を持て余す瞬間は誰しも必ず訪れる。

年末年始休暇やゴールデンウィークなど、まとまった休みに心躍らせるも開始2日目の夕方には「もうやることがない」と暇を持て余すようになり、あれほど渇望していたはずの暇が味方から敵に変わるのを感じるという経験である。

torwai/iStock

退屈が教えてくれること

同記事によると、Boredom is informative(退屈は情報だ)という。これはどういうことだろうか?つまり、自分自身の心の状態や弱点、課題を教えてくれる対象なのである。いくつか取り上げたい。

英語圏には「Only boring people get bored」という言葉がある。「退屈するのは退屈な人だけ」という意味だ。同じものを見たり聞いたりして、つまらないと思う人もいれば楽しくて興味深いと思う人もいる。つまり、自分が認識する対象の良し悪しではなく、面白がれるか?学びを得られるか?といった自分自身の問題という話だ。

つまらないと感じる理由は知識不足が大きい。地理の知識があれば、飛行機の機内の窓から地形を面白がれる人もいる。だが、その土地の地理の知識が何もなければ興味を持つことは難しい。退屈なもので溢れていると感じるなら、それは自分の知識が不足していることを教えてくれるのではないだろうか?

また、それまで楽しめていたことが急につまらなくなることもある。スポーツでも音楽でも仕事でも、最初は何をやっても見ても学びが多くて楽しかったのに、伸び悩みが続くと上達が感じられずつまらなくなる。そんな時は、技術向上をするための抜本的訓練の変更が必要なタイミングかも知れないし、あるいはスパッと思い切って仕事や趣味を変えてしまうべきタイミングかも知れない。

退屈は色々なことを教えてくれる。退屈な状況から発せられる声なき声に耳を傾けることで人生は今よりさらに良くなると思う。

人生そのものが退屈との戦い

人類の歴史とはすなわち、暇や退屈の克服の歴史でもある。その過程で労働や遊びが発達した。結果として現代社会は高度に情報化され、現代社会一日で浴びる情報量が江戸時代でいうと一年分、平安時代一生分といわれるほどだ。

自分は人生そのものが退屈と上手に付き合うゲームだと思っている。我が国においてはとりあえず餓死せず生きていくだけならそれほど難易度は高くない。

人生は大きな偉業をなすには時間が慢性的に不足しているが、何もしないのでは長すぎるという絶妙な時間設定がされている。何かをしなければ退屈に塗りつぶされる。そしてその退屈は多くの人にとっては辛く感じる。だがそこで退屈さを場当たり的な娯楽でごまかすべきではないと思っている。なぜなら受動的な娯楽は必ず飽きるからだ。

酒池肉林、贅の限りを尽くした生活もそれが続けば確実に飽きる。最新の娯楽を試しても、過去の作品の焼き直し感が生まれ始める。受動的な娯楽の限界値は、意外なほど低い。

自分が考える対応策としては、退屈と正面から向き合い、根本的に上手な付き合い方をすればいいというものだ。つまり、暇を持て余しているならその時間を楽しくなるものに変えてしまうのである。時間の使い方としては、知識をつけて世界を観測する解像度を高めたり、技術の向上を目指したり、クリエイティブな活動である。結果、人生そのものが向上していくし暇を得たらその時間を活用してより楽しい時間に変えてしまうことができる。

退屈さは敵ではなく、味方である。退屈さは変化すべきタイミングや、前例踏襲主義的な飽きから脱却するべきだよと教えてくれるシグナルである。忙しすぎると近視眼的、視野狭窄に陥り大局的な視点を忘れて目先の事以外何も考えなくなってしまう。その一方で暇は人生の長期戦略を考え直す絶好のチャンスである。退屈を制する者こそ、人生の真の勝者と言えよう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。