顧客を選ぶ方が顧客満足度が向上する理由

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最近、ランチタイムに足しげく通っているのが、インスタグラムでも紹介したことのある赤坂にある定食のお店です。お昼の11時半から2時間ほどしか営業しておらず、席数も10席のみ。開店と同時に満席状態がずっと続いている人気店です。

親子と思われる2人の女性スタッフがお店の切り盛りをしています。日替わり、焼き魚、牛豆腐といった定食メニューから選ぶことができます。

この店の最大の特徴は、おひとり様しか入れないことです。2人以上で来店すると、スタッフが丁寧に断っています。

店内には、1人で来ているお客さんしかいませんから、客同士の会話はなくとても静かです。

また、価格帯も例えば一番人気のまぐろの照り焼(写真)は定食で1500円と、やや高めです。そのせいかマナーをわきまえた年配客が多く、食べ終わるとサッと会計をして帰っていきます。食事が終わってからダラダラ残っているような人がいないので、長時間待たされることもありません。

1人客しか取らないで、経営が成り立つのかと心配でしたが、結果は真逆になっています。1人で美味しい和食を落ち着いて食べたい人たちが集まってきて、繁盛しているのです。

不特定多数の幅広い顧客層を相手にする飲食店は、大手チェーンと同じ土俵で戦うことになり、価格競争では勝てません。

こちらのお店のメニューは、大戸屋のような家庭の味ですが、手作り感があってリピーターが多く、無理に新規の集客をする必要がありません。何より店内が雑然としておらず、団体や子ども連れがいない静かな環境が落ち着くのが人気の理由だと思います。

このようにお店が顧客を選択することにより、顧客層がフォーカスされて、顧客満足度が向上する。これは他のビジネスでも同じことです。

私がやっている資産運用のセミナーやコミュニティーでも、似たような投資目的や資産属性の人が集まることによって、参加者の満足度が高まります。バラバラの属性の人の集まりでは、テーマを絞り込み切れないからです。

ピンポイントに刺さる商品やサービスを提供するためには、顧客層をそろえることが一番なのです。

集客を増やすために顧客層を広げて、結果的に顧客満足度を下げてしまう位であれば、あえて規模を追わずに顧客を絞り込み、顧客満足度の最大化を目指す。その方が、中長期的なビジネスの継続につながることになります。

飲食店のユニークな顧客選別経営は、自分の仕事にも大切なヒントを提供してくれます。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。