アメリカがウクライナにクラスター弾を供与する方針を固めています。クラスター弾は親子弾と言われ、親が爆発すると中にある数十から百近い子爆弾が飛び散り、さく裂するもので狙ったものというよりその周辺を一気に攻撃するものです。鳥を撃つ時の散弾銃の強力なものがイメージとしては近いでしょうか?
このクラスター弾は民間人を巻き添えにするということもあり、それを禁ずるため2008年にノルウェーのオスロでそれを禁ずる会議が開催され、現在では100カ国以上が参加しています。ある意味、禁則的な爆弾ですが、たまたま、ロシア、ウクライナ、更にはその使用を検討するアメリカもこのオスロ条約に加盟していません。つまり、使おうと思えば使える状況にあります。
ではなぜ、アメリカは世間一般に不評であるクラスター弾を使わざるを得ないと判断したのでしょうか?第一の理由はウクライナの弾薬不足とされます。多い日には1日6-8000発の弾薬を使い、既に100万発以上費消したとされ、地上戦がすっかりなくなった現代においてこれだけの弾薬を製造する能力が追い付かないというわけです。
これは表向きの理由ですが、本質的にはウクライナの反攻が弱いに尽きます。ひと月ほど前からゼレンスキー大統領は反攻に転じるとし、実際にその動きを見せたのですが、目に見えた成果が上がっていないというのが現状です。我々は西側のメディアの情報が主流ですが、私の知る限りロシアとウクライナは兵士や兵器の損失はほぼ同じぐらいです。最近はゼレンスキー氏のメディアへの登場が減っているのは情報の正確性とバランスに疑念があるからでしょう。
どちらが強いか、これは思いがあるほうを応援したくなるのが人間の性ですので現時点でどうなるかという発言は避けます。ただ、我々の記憶にあるようにロシア軍は粘るのです。2つ、思い出してみましょう。
まず、第二次大戦時にドイツがソ連を攻めた時なぜ、モスクワ手前まで来て反攻に転じたか、であります。ちなみに当時のドイツ軍は今のウクライナを抜けてモスクワに向かう部隊もあったのですが、ウクライナのぬかるみに悩まされたとあります。これは確か氷が解ける時期ではなく9月だったと記憶しています。
次に日露戦争の203高地の戦いです。ロシアは高台側で攻める日本軍は圧倒的に不利でありましたが、普通に攻めれば203高地は落とせなかったかもしれません。またその後のロシアの撤退も必ずしも遁走(とんそう)という感じではなかったと記憶しています。ロシア兵は粘り強いのです。
その粘りもあり今回アメリカがクラスター弾を使わざるを得ないと判断すればこれは実情、米ロの戦いになってしまう点に非常に懸念を覚えます。アメリカは基本的に自分たちが汚れ役にならなければ思い切った算段に出ようとするのは第二次大戦中のルーズベルトの判断と似ています。自分たちは戦争には関与しないと言いながら日本がハワイを不条理に攻めたという理由でルーズベルトは戦争をしない公約を破棄し、日本を攻め立てました。が、実際にはアメリカがハルノートで日本を焚きつけたことが直接的な引き金でしょう。
今回のアメリカのウクライナへの関与もなんだかんだ言っていつの間にか主導権を握っているのです。欧州諸国は自分たちに火の粉がかからないようにしていること、ドイツが橋頭保になっていることもあり、ゼレンスキーは欧州のことよりもアメリカの言うことを聞くようになっています。実際クラスター弾の使用を欧州諸国は反対しそうな勢いです。
私が恐れるシナリオはポーランドです。同国は過去、2度、世界地図から消えています。一度目はナポレオン戦争後の1772年から95年にかけてのプロイセン、オーストリア、ロシアによる分割、二度目が第二次大戦の際で、亡命政権はロンドンに置かれていました。ポーランドのロシアに対する怨嗟は特別なものがあります。よってウクライナがロシアの手に落ちるのはポーランドにとっては脅威であり、ポーランドがいつ、銃を取ってもびっくりはしません。しかし、ロシアがポーランド、ひいてはNATOを相手に戦う余力はゼロなのでそちらは刺激せず、形式上の地域戦争に留めたいところでしょう。
このところ言われているのが年内休戦ないし停戦にするための落としどころを探るという話です。これではヤルタ秘密協定のようなものです。ロシアを一発でノックダウンさせたいなら千島列島や樺太、シベリアを攻めればよいのですが、それには道義が無いのでできません。(しかもそれをしたら中国軍がでてくるかもしれません。)しかし、ロシアはそれぐらい弱っているし、ウクライナもそのロシア相手にてこずっているというのが私の見方です。
個人的にはクラスター弾を使うのは反対、アメリカが表立ってそこまで関与するのも反対です。そうなればロシアを焚きつけるだけで東部ウクライナが復興できないほどの壊滅的ダメージとなるでしょう。今回の戦争に対して世論も1年前に比べてはるかに冷静になっていることを考えるとバイデン政権にとってクラスター弾を使うことが自身の政治的利用にもプラスになるとは思えないのです。
あくまでも個人的意見です。本件は皆さんのご意見を特にお伺いしてみたいと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月9日の記事より転載させていただきました。