マイナカードとは?
現下、個人情報の誤登録や、別人の住民票発行、医療機関で健康保険資格が確認出来ないといったトラブルが相次ぎ、マイナンバーカードを巡る混乱が続いている。
先月26日にタレントのラサール石井氏がツイッターでカードを自主返納した事をアピールし、返納運動を呼び掛けると、それに対し実業家のホリエモン氏がツイッターで言及。「カード返納してもマイナンバーは付与されてるんで不便になるだけなんだけど笑」と皮肉。
カード返納してもマイナンバーは付与されてるんで不便になるだけなんだけど笑
あとラサール石井の為に無駄な税金が注ぎ込まれる。ラサール石井が報告「私は本日マイナンバーカードを返納しました」#保険証廃止は白紙に戻せ とも (スポーツニッポン) https://t.co/cnnrLwnXlT
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) June 28, 2023
続けて「あとラサール石井の為に無駄な税金が注ぎ込まれる」と、手続きのためまた税金が使われることを嘆き、双方のフォロワーから反論の応酬が行われる等、マイナンバーカードを巡って、感情論も交えながら賛成派と反対派に別れ鬩ぎ合っている。
ここで若干整理すれば、ホリエモン氏の言うようにマイナンバー制度によりマイナンバーは既に国民全てに付与されており、マイナンバーカードとは、そのナンバーを用いた、いわば「汎用IDカード」という事になる。そしてそのメリットとリスクをシンプルに言えば、次の通りである。
- メリット:諸手続きに於ける身分証明の簡素化、厳格化、リモート化
- リスク:悪用、誤用された際の芋づる式被害の可能性
マイナンバーカードのICチップには、致命的な個人情報は入っていなく、現時点では券面の表面情報(4情報(住所・氏名・生年月日・性別)+顔写真)と裏面情報(個人番号)の画像データが記録と公的個人認証サービスによる電子証明書の情報、その他が記録されているだけである。
上記のデメリットに挙げた悪用、誤用に繋がるセキュリティー面は、カードと暗証番号の組み合わせ等で行われるため、米国の社会保障番号のように番号入力だけで本人確認が行われるものより厳しく設計されていると言える。但し反面、カードを持ち歩く機会が増えるため盗難や紛失の頻度は増える事になるだろう。
なお目下、河野デジタル相が格闘している諸々のトラブルは、多大な労力と予算を伴いながらも 何れは収まって行く方向と思われるが、紙の健康保険証廃止、マイナンバーカードへの統合によるマイナンバーカード取得の事実上の義務化が停止されない限り、前述のメリットに加えリスクからも経過措置はあるものの逃れる事は出来なくなった。
マイナンバー制度自体のリスク
最近、河野大臣が強調している通り、上述の「マイナンバーカード」と「マイナンバー制度」は異なる。マイナンバー制度自体の問題点としては、政府が一元的に国民を統制する手段と成り得てしまうという側面がある。なお、「クレジット会社には個人情報が渡っているのに今更マイナンバー制度に警戒するのは意味がない」というような議論をよく見掛けるが、後者には公権力が控えているという点に違いがある。
マイナンバーは従来、法律で社会保障と税、それに災害対策の3分野に利用できる範囲が限定されていたが、6月2日に成立した改正案によって国家資格の更新や自動車に関わる登録、外国人の行政手続きなどの分野にも範囲が広がり、また法で認められた業務に「準ずる事務」なら法改正せずに政省令で利用できるようにもなった。
また例えば、「公金受取口座」として、マイナンバーと銀行口座の紐づけは現在任意だが、財務省としては国民の財産把握のためにやがては全口座強制に持って行きたいという意欲を抱いている。
現在でも当局が犯罪等に関係した個人口座を調べる事は可能だが、やがては法改正等が必要なものの令状なしで即時に調べる事や口座凍結、預金封鎖等を可能なようにしたいというのは、政府・官僚機構が本能として持っているだろう。
マイナンバーカード取得の事実上の義務化は、直接的には必ずしも関係なくとも、空気で動く日本社会では、こうしたマイナンバー制度の政府権限の拡大へなし崩し的に進むための精神的舗装道路とも成り得る。特に現在、左派野党が政権運営能力の涵養をハナから放棄している中、日本維新や国民民主もLGBT理解増進法案等に賛成する等、自民公明の別動隊のように動いており歯止めとしての機能が期待薄であるため、事は一気に進む機運がある。
諸外国でのマイナンバーに準ずる制度では、エストニア等の比較的小規模な国では、「電子政府」と言われるように広範囲に行政手続きに組み込み、独仏等の比較的大きな国ではプライバシー面の懸念から部分的、分割的な運用に留めている傾向がある。また、米国や韓国では実際の弊害も起きているようである。
日本では、こうした諸外国の事例、事情を深く観察し、利害得失を勘案しその適用範囲を慎重に定めるべきである。マスメディアもパーシャルで表面的、刹那的な事以上のものを語る意欲と能力を欠いている中、国民自身が目覚める必要があるだろう。