外国人労働者(エクスパット)の「本音」

英誌エコノミストの調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が毎年発表している「世界で最も住みやすい都市ランキング」でウィーンが「2023年の最も住みやすい都市」に再び選ばれたことはこのコラム欄でも報じた。ウィーンにとって2018年、19年、そして23年と3度目の栄光だ。音楽の都ウィ―ンに住む市民にとって誇らしいニュースだ。

モーツァルトが生まれたザルツブルク市の風景(ザルツブルク市観光公式サイトから)

ところが、オーストリアの日刊紙クリアが11日付で「オーストリア人は世界で最も非友好的な人々」という調査結果を報じたのだ。外国人労働者(Expat=エクスパット)の視点から見ると、「オーストリア人はどこよりも非友好だ」という。これはエクスパットネットワーク「インターネーションズ」の調査結果だ。

「エクスパット・インサイダースタディ」は、エクスパットが勤務している国の満足度を評価するものだ。「友好性」のカテゴリーでは、先述したように、オーストリアは「世界で最も非友好的な国」だ。スペイン人の1人は、「オーストリア人には少し温かさが足りない」と指摘し、他のエクスパットたちは、「友達を作ったり、新しい人と出会うこと自体が難しい」と嘆いている。ちなみに、オーストリアに次いでクウエート、デンマークが続く。「適応性」というカテゴリーでは、オーストリアは53カ国中52位で、最下位はクウェートだ。

一方、エクスパットにとって最も魅力的な国はメキシコだ。メキシコの住民は、「外国人に対して世界で最も友好的」であり、住宅市場や給与などの面でも高い評価を受けている。メキシコに次いで総合ランキング2位はスペイン、その後にパナマ、マレーシア、台湾と続く。ヨーロッパの国の中ではポルトガルが10位に入っている。

ただし、オーストリアは生活水準では高評価を得ており、総合ランキングではオーストリアは42位だ。特にオーストリアの交通システムは、調査によるとランキングで4位、「環境と気候」では6位、医療制度は8位だ。

ちなみに、前年の調査では、オーストリアは「旅行と交通」と「健康と幸福」のカテゴリーでトップ3に入っていた。そのため、「非友好さ」にもかかわらず昨年の総合ランキングでは24位だった。

興味深い結果は、「友好性と歓迎の文化」のカテゴリーでは、ドイツ、オーストリア、スイスのドイツ語圏(DACH-Raum)は全体的に評価が低いことだ。ドイツはエクスパットの適応において50位と、オーストリアより2つ上の順位、スイスは47位だ。ただし、スイスは高い生活の質と労働満足度により、総合ランキングで23位にランクインしているが、ドイツは「エクスパットの必需品」(住居やデジタルインフラなど)で最下位を占めており、ドイツは外国人労働者にとってワースト5の中に入っている。ちなみに、ドイツ(49位)の後には、韓国、トルコ、ノルウェー、クウェートが続く。イタリアは47位であり、特にキャリアチャンスや労働市場における大きな不満が原因だ。

「エクスパット・インサイダースタディ2023」は、ミュンヘンの企業「インターネーションズ」が2014年から実施してきたもので、今年は10回目だ。今年の「エクスパット・インサイダースタディ2023」では、172の国から約1万2000人のエクスパットのデータが収集された。

国別比較ではなく、都市別の比較でも「世界で最も非友好的な都市」にウィーンは昨年選ばれている。特に外国人に対してウィーンの住民は拒絶的だとエクスパットたちは述べている。ただし、「生活の質」に関しては、ウィーンはここでもトップ10に位置している。

まとめると、ウィーンを含むオーストリアは生活の環境はトップクラスだが、そこに住む国民は世界で最も非友好的な人々だというわけだ。オーストリアを訪れる外国人旅行者はモーツァルトの生誕地やシューベルトの思い出の地などを訪れ、楽しい思い出をたくさん集めて帰国するが、その国に住む外国人労働者にとって、オーストリア人ほど非友好的な国民はないというのだ。オーストリア国民にとって、少々ショッキングな調査結果だ。

参考までに、「エクスパット・インサイダースタディ2023」でのオーストリア人に対する総合評価は「美しく孤独」(Schon einsam)だった。外面は美しく整っているが、そこに住む人間は外国人に対し少々冷たく、非友好的、そしてひょっとしたら孤独だというのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。