事故の概要、市事故調の最終報告、市長の発言および楽団の反応については前稿を参照いただきたい。
(前回:裾野市民文化センタースプリンクラー放水事故①:市事故調の調査に不正はなかったか?)
裾野市は1階の手動起動弁による人為的操作を主張
事故当初は一部マスコミによって裾野市が「人為的操作以外はあり得ない」という主張をしているという報道がなされた。この根拠はこの設備の点検管理を担当しているニッセー防災および日本ドライケミカルの「系統1と系統3の複数系統が作動したから誤作動の可能性は低く人為的操作だ」という説明であった。
しかし現在は「加圧用配管が充水・加圧されれば、複数系統の誤作動も起こり得る」ことを日本ドライケミカルが2023年1月26日付けで楽団に送付した文書において認めている。さらに市事故調が2月8日に検証を行い複数系統の誤作動が起こることを確認している。
しかし市事故調の2023年3月6日の第6回会議(委員会)議事録をみると、この2社は3月6日の時点においても1階舞台袖における手動起動弁の人為的操作を強く主張していたことが伺える。
実はバルブを開けた後に閉じるタイミングが難しい
2022年9月24日の放水事故後の現場検証で1階の全ての手動起動弁は「閉じた状態」であったことが確認されている。もし何者かが1階の手動起動弁を開けて舞台上に放水させたのであればどこかのタイミングで手動起動弁を閉じたことになるが、実は手動起動弁を閉じるタイミングが難しい。
加圧用配管が十分に充水・加圧される前に手動起動弁を閉じてしまうと一斉開放弁は開かない。よって舞台上に放水はされない。楽団が今年2月22日に行った現地調査で手動起動弁を開いてから一斉開放弁が開くまで10~20秒かかることが確認されている。よって手動起動弁を閉じたのは手動起動弁を開けてから10~20秒後以降ということになる。
「20秒以上経ってから手動起動弁を閉じればいい」ことは現地調査の結果として判明したことであり、誰もこのことを放水事故以前に知ることはできない。よってこの秒数ギリギリで閉じたとは考えにくく、十分に長い時間(1分以上)かけて閉じたと考えるのが自然である。
手動起動弁を開けた後に「数十秒経ってから閉じる」という発想をしないのでは?
故意に手動起動弁を開くというのは、人に見られたくない悪いことをするわけであり、人目を気にして少しでも早く終わらせてその場を離れようとするのが自然である。手動起動弁を開いた後で閉じるということがそもそも不自然であるが、もし手動起動弁を閉じるのであればその場ですぐに閉じたはずである。
それから誤って手動起動弁を開いてしまった場合、慌ててすぐに閉じたはずである(ただし手動起動弁は金属製の箱状のものに格納されており、誤って触ってしまう可能性は極めて低い)。これらのケースでは加圧用配管は十分に充水・加圧されないため一斉開放弁は開かずに放水はされない。
もし1階の手動起動弁の人為的操作があったのであれば、手動起動弁を開いた後に数十秒経ってから手動起動弁を閉じたということになるが、常識的に考えて「数十秒経ってから閉じる」という発想をしないのではないか。
3階投光室内のテスト用加圧弁でも放水が可能
実は3階投光室内のテスト用加圧弁の操作でも舞台上への放水が可能である。このテスト用加圧弁はニッセー防災/日本ドライケミカルが法定点検時の機能試験(放水)の際に使用しているものであるが、3階投光器室へのアクセスおよびバルブの操作方法を知る者は僅か数名にかぎられている。
この場所での人為的操作の可能性について裾野市やニッセー防災/日本ドライケミカルは指摘していない。
まとめ
1階の手動起動弁を人為的に操作した可能性が非常に低いと考える根拠は、手動起動弁を閉じるタイミングが難しいことである。手動起動弁を開けた後で数十秒経ってから閉じたことになり常識的には考えにくい。
裾野市とニッセー防災/日本ドライケミカルが1階の手動起動弁による人為的操作を引き続き主張するのであれば、どのタイミングで手動起動弁を閉じたのかも含めて具体的にどう操作したのかを説明するべきである。
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牧 功三
米国の損害保険会社、プラントエンジニアリング会社、