岸田内閣の支持率が再び大きく下降しています。サミットの頃にピークをつけたのち、最新の世論調査では読売が6月の調査から6ポイント下落の35%となり、岸田内閣としては過去最低となっています。毎日の調査も前月比5ポイント下落の28%です。両調査ともマイナカード問題が足を引っ張ったとされます。
一方、マイナカード問題については確かに人為ミスや請け負った富士通の不出来具合などもあり、導入時に起きやすい不慣れさからくる「バグ」的問題が数多く指摘されています。ただ、マイナカードに一定の問題があったとしてもマイナカードの中のチップには大した情報は入っていません。それよりも健康保険証の使いまわし問題を止めるためにもマイナカードは必要である、という論調は識者を中心に確固たるものがあります。個人的には以前にも記したとおり、今更止めるとか、紙を併用するという後退した思想ではなく、この苦しい時を乗り越えなくてはいけないと思っています。
よって仮にマイナカード問題が政権支持率の低下であるならばそれは本質的問題ではないし、回復の余地はあるとみています。ただ、岸田首相自身がマイナカード問題について担当大臣に押し付け、自分は火中の栗を拾う姿勢を見せないことがむしろ、岸田氏自身のポピュラリティを下げていると思います。つまり、「本気でマイナ」ならば岸田氏は外交の時間を削ってでもこの問題に取り組むべきでしょう。
私が見る岸田氏のアキレス腱は増税バイアスの姿勢である点です。そもそもは防衛費ねん出のための歳出を国民負担にするとし、その増税プランを政権内で検討したことで「恨みを買った」と思っています。岸田氏は気がついていないかもしれませんが、この増税プランは消費税増税と同じくらいインパクトがある日本国民には最も不人気な政策です。それを防衛費の増額に絡ませてさらっと事も無さげに国民負担としたことが思慮のなさというか、無防備であり過ぎた、そう思うのです。
防衛費増額については国民の支持は比較的高く、それについての異論は比較的抑えられています。問題はその財源。結局、国民負担の時期についてどんどん先延ばししているのは俎上に載せれば政権にクラックが入ることが目に見えているからです。
そんな中で今般、退職金や交通費補助や社宅を含む諸手当や便益への課税を税制調査会の中期答申に盛り込まれました。退職金課税については不思議な仕組みで20年を超える勤務をすれば退職金の所得控除額が年間40万円から70万円に増えることで長期就労こそ働く人にはメリットがあるという仕組みでした。終身雇用が主流ではなくなった現代においてこの制度を見直すのか話題になっています。
そもそも見直しの方策として勤務年数一年あたり40万とか70万円という所得控除を取っ払うという劇薬すら考えられます。それは退職金を給与の一部とすればそうなるのです。一方、欧米のストックオプションに対する日本型企業貢献への報酬と考えれば低廉な税率/税額が妥当でしょう。財務省が税を取りたければ前者を主張するはずです。
もう一つは通勤費や社宅手当の控除です。通勤費は現在月15万円までは非課税ですが、これに課税をするというものです。日本では通勤は仕事の一部という考え方があります。その為、通勤途上の事故は労災扱いです。ところが北米は通勤は仕事ではありません。よって労災でもないし、交通費の支給という発想がほぼありません。社宅もしかり。
日本は従業員を抱え込む仕組みですが、北米はそんなことはしません。その代わり、給与が高いのです。つまり、給与を日本と北米でapple to apple で比較できないのです。同様にボーナスも日本は給与の一部で日本は給与が年14回あるという考え方です。退職金はもっとあり得ない発想です。その代わり、北米は定年退職の年限がないのです。つまり、自分の体力や気力に合わせて就労のエンド時期を決めます。
岸田氏、ひいては税制調査会が打ち出している増税プランは基本的には北米などでの税慣行に移行したがっているように見えます。増税というムチを出すならメリットというアメを示さなければならないのですが、それは出てきません。理由は税制調査会が上述の防衛費増額に伴う歳入の確保に視点を置いているからです。税の仕組み全体を見直すわけではないのです。だから小手先になって歪みが出るのです。
岸田氏が財務省のポチといわれるのは結局、全体の構図をどうしたいのか明白に示さないまま、部分的にあちらこちらに手を付けるのでキャンバスに描き上げた絵は統一感のとれないバラバラなものになるのです。では岸田氏がそれでも首相をやり続ける理由は何故か、といえば自民党幹部が変わることを恐れているようにも見えます。つまり保守政権の自民党が党内の保守、守勢に回ってしまったのではないでしょうか?
次にいつ選挙があるかわかりませんが、維新などの躍進に太刀打ちできなくなる日はさほど遠くないかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月24日の記事より転載させていただきました。