スペイン総選挙の結果、高まる年内再選挙の可能性

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世論調査の予測と今回の選挙結果の大きな乖離

今月23日に行われたスペインの前倒し総選挙は、当初どの世論調査も保守党(PP)が勝利するという予測をしていた。ところが開票して見ると、極右政党ボックス(VOX)の議席を加えても過半数に届かない結果となり政権奪還が非常に難しくなっている。

一方の敗北した現与党の社会労働党(PSOE)は当初、議席が減るというどの世論調査の予測に反して逆に2議席を増やした。この結果を踏まえて、これまで通り烏合政党を集めた通称フランケンシュタインの政権が継続する可能性が浮上している。

当初、サンチェス首相のPSOEが政権を失うという予測が濃厚になっていたのは、彼が政権を維持するためには国の統一を犠牲にしてでも政権にしがみ付くという姿勢に多くの国民が不快を感じていたからである。

例えば、法案を可決するためにPSOEと連立政権を組んでいるポデーモス(PODEMOS)を加えても過半数に満たないのでカタルーニャとバスクの独立政党に賛成を仰いでいた。しかし、その為には交換条件を独立政党は要求して来る。それが具体的に表面化した例として以下のようなことを挙げることができる。

  • カタルーニャの独立を謳った2017年の住民投票で有罪となった当時の閣僚にサンチェス政権は恩赦を与えた。
  • バスク州には社会保障制度の行政権を付与したり、空港と港の管理をバスク州政府に移譲した。
  • またバスクのテロ組織から派生した政党ビルドゥ(BILDU)とも連携して法案に通過させたこともあった。元暗殺テロ組織のビルドゥーと連携を結ぶなど一般には容認できないことである。
  • 更に、性犯罪の刑罰を強化する刑法「イエスだけがイエス」を法制化させた。この法制化するという姿勢は良いのであるが、ポデーモス出身のモンテロ平等相が提出したこの法案は抜け穴が目立っていた。それを無視して法制化させた結果、1000人以上の性犯罪者の刑期が短縮されて釈放されたのである。
    サンチェス内閣には3人の判事が閣僚としている。その誰もがその盲点に気づいていても、それを法制化させた責任は重い。しかも、この法案を編纂したモンテロ平等相は今も解任されないでいる。サンチェス首相は政権運営にはポデーモスの議席が欲しい為に彼女を解任できないのである。勿論、彼女が辞任するはずはない。スペインで閣僚が辞任するのはよほどのことでないと辞任しないのが通例となっている。また彼女はポデーモスの創設者であり副首相も務めたパ経験のあるブロ・イグレシアスの夫人である。

サンチェス首相の独立政党への譲歩に多くの国民は憤りを感じている

このような不祥事に国民が黙っているはずがない。5月の地方選挙で惨敗したPSOEの党首であるサンチェス首相への党内からの批判も次第に強まって行った。

そのような圧力下の中で今後も政権を運営して行くのは非常に困難であると見たサンチェス首相は前倒し選挙に踏み切ったのである。それも投票日を7月23日としたが、7月と8月は夏休みが絡んで有権者は既に休暇を愉しんでいるといった具合で投票するのは容易ではない。そのような事情から郵便投票を200万人が利用した。これも最終的にはおよそ住所不在などで50万人が投票できなくなったという。

サンチェス首相が敢えて夏休みでも構わず投票日に充てたというのは、彼の自党内からの圧力から逃れるためと、当初予定されていた年末の選挙ではPSOEは有権者からさらに支持を失う可能性があると読んだからであった。

複数の世論調査がどれも保守党の大幅な勝利を予測した

選挙選になって、スペインの世論調査の大半がPPの勝利を予測した。例えば、7月11日付けの3つの世論調査会社40dB、SigmaDos、Gad3とどれも主要4政党の中でPPが勝利するという予測を出していた。特に、Gad3は的中率が非常に高いということで常に高く評価されている会社だ。

ところが、投票率70%の開票の結果はPP(136)、PSOE(122)、VOX(33)、SUMAR(31)という議席になったのである。スマール(SUMAR)というのはポデーモスの一部やその他左派が集まった連合政党である。PPは47議席を増やしたが、当初の予測から大きく下回った結果になった。VOXの議席を加えても過半数の176議席には届かない。

PPは勝利はするが、予測通り過半数の議席獲得は難しいとされていた。そこで政権を取るには唯一VOXと連携するしかない。それに多くの有権者が敬遠したのであった。何しろ、VOXは極右で議員の中には女性差別を支持している議員もいるということからだ。

しかし、VOXは19議席を失った。VOXに投票していた有権者が今回はPPに投じたからだ。もともとVOXのリーダーアバスカル氏はPPに所属していた人物だ。

保守党が政権を取るには5政党の連携が必要となっている

PPのリーダーフェイホー氏が首相になるには唯一PP(136)+VOX (33)+バスク国民党(PNV)(5)+カナリア連合(CCa)(1)+ナバラ住民連合(UPN)(1)の支持が必要になっている。これで過半数の176議席になる。

しかし、バスク国民党はVOXとは連携しないということを明言しているとは言うものの、バスク国民党はテロ政党ビルドゥーの前にバスク地方で支持票が減少している。バスク国民党はもともと右派が支持政党の基盤である。PSOEと連携を強めているビルドゥーに対抗する意味でVOXが絡んでいてもPPへの支持に回る必要がある。バスク国民党はVOXが絡んで来るPPを支持することはしないと明言している。

しかし、政治の一寸先は闇である。言っていることと実際に行動することに良く差があるのが政治の世界だ。

社会労働党が政権を維持するには烏合政党の支持が必要となっている

一方のPSOEは当初の予測に反して2議席を増やして122議席を獲得。当初、議席が減るのを覚悟していたPSOEは勢いを取り戻している。サンチェス首相が再任される可能性もある。

PSOE(122)+SUMAR(31)+カタルーニャ共和主義左翼(ERC)(7)+ビルドゥー(6)+バスク国民党(5)+ガリシア民族主義ブロック(BNG)(1)と合わせると172議席。ベルギーに亡命しているカタルーニャ元州知事のジュンツ(JUNTS)(7)を加えると179議席となってサンチェス首相が再任されることになる。

しかし、ジュンツは支持に回るには独立投票の実施を政府が承認することなど交換条件を出している。もう一つ疑問はバスク国民党がライバルのビルドゥと同じくサンチェス首相の再任に前回同様に今回も票を投じるか疑問である。何しろ、ビルドゥがバスク州で支持を挙げている。それに対抗する意味で今回はPPを支持する可能性もある。また、バスク国民党がサンチェス政権誕生を復帰させないためにPPはバスクに多大の影響力を持っている大企業に圧力をかけている。

フェリペ国王が最初に誰に組閣の要請をするか疑問

先ず最初にフェリペ6世国王が誰に組閣の為の打診をするかが疑問である。通常であれば最大の議席を確保したPPのフェイホー氏に打診するのが慣例である。しかし、これまで首相を務め、さらにその再任の可能性があるサンチェス氏に最初に打診する可能性もある。しかし、フェリペ6世とサンチェス首相との関係は円滑ではないというのは良く知られたことである。

もともとPSOEの党首はスペイン王家を尊重する姿勢を常に維持して来た。 ところが、サンチェス首相になってその姿勢に幾分崩れが見えるのも確かである。サンチェス首相個人が国家元首であるフェリペ国王への配慮が欠ける場面が数度あった。このような失態はこれまでPSOEの歴代首相には一度もなかったことであるが、サンチェス首相になってからそれが顕著になっている。

スペインの大手企業の間ではサンチェス氏が再び政権に復帰するようであれば、本社をスペイン以外に移す考えを持っている企業が複数あると言われている。彼の独立政党と連携する姿勢や企業に対し新たな税金が設けられることに懸念しているからである。

どの政党に政権を渡すべきか既に政党間で交渉が開始されている。その結果次第では、PPのフェイホー党首もPSOEのサンチェス党首も首班指名で首相に成れる可能性が薄いと判断された場合は今年12月に再選挙の可能性もある。