なぜ一部の大手企業って60代社員を優遇しようとしてるの?と思った時に読む話

複数の大手日本企業がシニアの処遇改善に踏み切るとのニュースが話題となっています。SNSで上位トレンド入りしたので、関心のある層が多いんでしょう。

【参考リンク】60代社員を現役並み処遇 人材確保、住友化学は給与倍増

60代社員を現役並み処遇、住友化学は給与倍増 人材を確保 - 日本経済新聞
人手不足が深刻になる中、シニア人材の処遇を現役並みに改善する動きが出てきた。住友化学は2024年から60歳以上の社員の給与を倍増。村田製作所も24年4月以降、59歳以前の賃金体系を維持しながら定年を65歳に引き上げる。「人生100年時代」を迎え、労働市場で比重が高まる60代以上が意欲を持って働くシニア雇用の環境づくりが...

60代といえば「あのさあ、年金払う余裕ないから企業で面倒見てよ」と政府に一方的に押し付けられた世代です。

そんな人たちの処遇を抜本的に見直すという報道に驚いた人も多いはず。

何が企業を動かしたのか。企業の狙いはどこにあるのか。いい機会なのでまとめておきましょう。

とにかく人手が足りない企業、選択肢は2つあったが……

現在、一般的な日本企業の年齢構成というのは、50代半ば~60代前半が最大のボリュームゾーンとなっています。幸運にも80年代半ばから91年の間に世に出ることのできたバブル世代ですね。

(それまでも十分多かったのに)「例年の2倍以上の新卒採用枠」が卒業と同時に口を開けて待っていて、豪華クルーザーでの内定懇親会とか海外旅行研修とかやってた世代です、はい。

会社に丁度その年代で全然聞いたことが無い大学出のオジサンがいたら、時代の生んだあだ花、歩く不良債権みたいな希少種なので泣きながら手を振ってあげてください。

で、そのちょっと下の世代、40代半ばから50代前半は逆に非常に頭数が少ないのが一般的です。いわゆる氷河期世代という奴ですね。

つい最近「昔はいい大学出の優秀な人材が大学卒業後もフリーターとして残ってくれたから安く使い倒せた良い時代でした」っていうコンビニオーナーの独白が話題になってましたが、それだけ企業が正社員採用を絞っていたということです、はい。

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1店舗残して閉店したコンビニオーナーの告白「働く人が本当に集まらない」
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本来であれば毎年前年比+αの数を安定して採用し、年齢別にみるとなだらかなピラミッド型になっているのが年功序列型組織にとっては理想なんですが、実際問題として終身雇用のせいでこうなっちゃってるわけです。

一度雇ってしまったらクビに出来ず、雇用調整ツールとしては新卒採用を絞る以外にないからですね。

筆者の記憶だと日本企業が一番新卒採用採っていたのは91年入社で、それまで年100人採ってた会社だと300人くらい普通に採ってましたね。

それが93~94年には「新卒採用見送り」とか普通にやってましたから。

まとめると、多くの日本企業というのは終身雇用制度のせいで非常にいびつな年齢構成になっているわけです。

そして、現行制度のもとでは60歳でいったん定年し、その後は嘱託として再雇用され給与はほぼ半減するのが一般的です(定年が65歳の企業もやはり給与水準は減るケースが多い)。

つまり、企業内の最大のボリュームゾーンであるバブル世代は、もうすぐ給与半減の超絶消化試合モードに突入することが確定しているわけです。

「同じ仕事なのに給料半分にされたらやる気なんてなくなるよ」という人がほとんどじゃないでしょうか。

やる気なくなった彼らバブル世代の穴を誰が埋めるのか。当たり前ですが少子化の進む今、新卒採用数を増やすのは至難の業でしょう。実際には大手であっても採用枠を埋められない企業が多いのが実情です。

【参考リンク】18歳新成人は112万人 20歳迎える人は昭和43年以降で最少

18歳新成人は112万人 20歳迎える人は昭和43年以降で最少 | NHK
【NHK】新年を18歳で迎える新成人は総務省の推計で112万人です。また、これまでと比べるため20歳でみますと117万人で、推計を…

40代後半の氷河期世代を“補充”するというのが、おそらく最も現実的なプランでしょう。新卒で思うような就活が出来なかった彼らの潜在的な転職ニーズは強いと思われ、転職市場で「求む氷河期世代!」と正規の求人を出せば入れ食い状態になるのは間違いないはず。

実際、既にそういう方向に動いている企業は大手以外では結構ありますね。中小なんて贅沢言っていられませんから。

ただ、ここで予想外の制約が発生します。そう、一昨年に施行された例の70歳雇用ですね。従業員の70歳までの就業機会の確保について、企業に努力義務を課すものです。

「氷河期世代を採るのもいいけど、どうせ70歳まで何らかの形で雇用機会を保障しないといけないなら、バブル世代にもっと金積んでリブートして再戦力化した方が合理的なんじゃないか」

これが、一部の大手企業で60代の処遇見直しが進む背景でしょう。誰かの雇用を保証すると別の誰かがスルーされるという、この30年ほど繰り返されてきたいつものアレですね。

というわけで、上記報道に対するSNS上の反応をつらつら見ていると

「いいぞうちも続け」「高齢者の活躍できる社会を!」

みたいな肯定的な反応が多いんですが、広い目で見るとそんなにいい話でもないのでは、というのが筆者の見方です。

以降、
60代を優遇しようとしている企業が見落としていること
やるんなら全世代をリブートしろ

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年7月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください