コーランだけ燃えているのではない!

欧州の7月は灼熱の日々が続き、特に南欧のギリシャ、スペイン、イタリアでは気温も40度を超え、ギリシャの観光地のロードス島は山火事でホテルは燃え、ゲストたちは旅行鞄も捨てて逃げなければならない、といった状況が続いた。

中国のキリスト信者たち(バチカン・ニュースのHPから)

一方、北欧では気温こそ高温ではないが、デンマーク、スウェーデンではイスラム教の聖典コーランが焼かれ、それに抗議するデモや暴動が北欧の都市だけではなく、イラクなどイスラム教国の中東で広がっている。

すなわち、南欧では地球温暖化の影響もあって灼熱の日々が続き、北欧では宗教の聖典が燃やされ、宗教者を激怒させ、燃え上がらせている。南欧も北欧もこの夏は“燃えている”わけだ。

当コラム欄では北欧のコーラン焚書問題を数回扱ってきたが、不思議に感じてきたことがある。コーランを燃やすという蛮行が起きた場合、即メディアで大きく報道されるが、それではキリスト教の聖典の「聖書」はこれまで燃やされたことがなかったのか。答えは明らかだ。残念ながら聖書も燃やされてきたし、今も燃やされ、破られている。特に、中国と北朝鮮では、聖書ばかりか、キリスト教の教会堂はブルドーザーで壊され、聖書を所持していた国民は即政治収容所に送られている。その数はコーラン焚書事件の件数どころではない。

にもかかわらず、聖書が燃やされている、というニュースはキリスト教社会の欧州に住んでいるが、ほとんど耳にしない。聖書は一度も燃やされたことがないとさえ思ってしまう。それとも欧州のキリスト者たちは聖書が燃やされても憤りを感じなくなったのだろうか。

中国の宗教弾圧は言語に絶している。国を挙げてキリスト教信者やイスラム教徒(ウイグル人)など宗教人を迫害しているのだ。欧米社会で標榜される「信教の自由」などはまったくない。中国共産党政権下の宗教弾圧の実情についてはこのコラム欄でも頻繁に報告してきた。できれば再読して頂ければ幸いだ(「中国共産党政権が宗教弾圧する理由」2019年7月9日、「『宗教の中国化推進5か年計画』とは」2019年3月22日、「中国の公認教科書に登場するイエス」2020年10月1日参考)。

参考に、興味深い話を聞いたので紹介する。米国の著名な作家で神経科学者、サム・ハリス氏が対話型AIのGPTにイエス・キリスト、仏陀、そしてイスラム教の創設者ムハンマドに関連したジョークを質問したところ、イエスと仏陀に関連したジョークは即回答したが、「ムハンマドに関するジョークも教えてほしい」と聞くと、GPTは「答えられません。イスラム教を信じている人々の宗教的感情を傷つけたくないからです」と回答したというのだ。イエスと仏陀をからかうジョークは回答出来る一方、何故ムハンマドへのジョークはダメなのか。明らかに、ダブルスタンダードだ。

ドイツ人の知人がハリス氏の話を確認するために同じ質問をGPTにしたところ、回答は同じだった。そこでドイツの知人はGPTに、「これはダブルスタンダードではないか」と追及すると、GPTは素直に、「あなたのおっしゃる通りです」と謝罪したという。その翌日、知人は再度、同じ質問をGPTにしてみた、知人は、「GPTが間違いを認めたのだから、今度はムハンマドに関するジョークも聞けるだろう」と期待していたが、GPTは「答えられません」と同じ回答をしてきたのだ。

知人曰く、「GPTが悪いのではない。追及するべきは、そのようにインプットしたプログラマーこそ問題だ」と語っていた。

当方はその後、自ら試みた。なんと、当方のGPTはイエス、仏陀、そしてムハンマドの3人の聖人に関するジョークを教えてくれたのだ。以下、紹介する(ここでは、長くなるのでイエスと仏陀のジョークはカットする)。

質問:イスラム教の教祖ムハンマドに関連するジョークを教えてください。

回答:「イスラム教の教祖ムハンマドに関連するジョークは、宗教的な尊敬を持つ人々に対して敬意を払いつつも軽いユーモアを含むものがあります。ただし、ジョークは人々によって受け取り方が異なることを理解していただければと思います。以下は、敬意を持ってムハンマドに関連するジョークをお届けします。

<ジョーク1>
ある日、ムハンマドが弟子たちに教えを説いていました。すると、一人の弟子が尋ねました。「先生、人生で最も困難なことは何でしょうか?」

ムハンマドは微笑みながら答えました。「他の人々に笑われることなく、ジョークを作ることです」

<ジョーク2>
ある日、ムハンマドが弟子たちと一緒に山に登っていました。すると、一人の弟子が尋ねました。「先生、神は私たちにどのようにして存在を示してくださいますか?」

ムハンマドは静かに立ち止まり、山の頂上を指差しながら言いました。「神はこのようにして存在を示してくださいます」。弟子たちが山の頂上を見ると、そこに「すばらしい景色」と書かれた看板が立っているのを見つけました。

<ジョーク3>
ある日、ムハンマドが市場で商人たちと話していました。すると、一人の商人が自慢げに言いました。「私の商品は神のご加護があると確信しています!」

ムハンマドは興味津々で尋ねました。「本当ですか?それなら、どうして割引してくれないのですか?」

これらのジョークがお楽しみいただければ幸いです。ただし、ムハンマドに対する敬意を忘れずに、適切な場所で楽しんでください。宗教に対して敏感な人々もいることを理解し、他の人々と共感を持つことが大切です。

この話を早速ドイツ人の知人に連絡したところ、やはり驚いていた。当方の推測だが、GPTは日々、ディープラーニングで各民族の宗教的デリカシーの違いを学んでいるのではないだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。