外資系が期待する国内ホテルの需要

大都市圏で外資による高級ホテルの新規開業が目白押しになっています。特に東京や大阪では高層ビルの一部のフロアに高級ホテルをはめ込む手法が増えており、部屋数は100程度ながらも高レベルのサービスを提供するブティックホテル型が人気となっているようです。

東京の高級ホテルの一角、ニューオータニはご縁が多く、東京滞在中には時折行きます。さすが泊まることはないですが、いつ行ってもその大きさには圧倒されるものがあります。まさに「ザ ホテル」という貫禄です。日本のホテルは広いロビー、宴会場、数々のレストラン、プールやアメニティにショップが連なっているのがホテルの代名詞であり、地方の温泉旅館でも規模が大きいところでは土産ショップのみならず、朝市や夕食後の時間を過ごす工夫をしているところも多く見かけます。

外資系に代表される高層ビルの一角にあるホテルは基本的には宿泊、フィットネスなどのアメニティ、朝食などを取れるレストラン/カフェでショップや本格レストランは建物内外の他のところにいく必要があります。ブルガリホテルのような超高級ホテルを別にすれば普通の部屋で一泊5-10万円/人ぐらいが相場ではないかと思います。

ではなぜ、今、高級ホテルなのかといえば高層ビルを建築するデベロッパーからすれば巨大な床面積を全部オフィスにしても効率的ではないし、高い満足度が出ないからです。10-20年前までの開発では「下駄ばき型」と称し、高層ビルの下層部分にレストラン街やショッピングエリアを入れるパタンが主流でした。(「下駄ばき」とは下層階に商店などを入れる開発手法の業界用語です。)例えば新丸ビルなどはその典型です。六本木ヒルズのグランドハイアットも21階建てのホテルが高層階とは別棟扱いです。

ところが最近次々と建築される40階、50階の建物オフィスの供給過多もあり「下駄ばき」以上に付加価値をつける必要があります。そこで建物の10-20フロアをホテルにするケースが増えているのです。新宿の歌舞伎町タワーはなんとPan Pacific系とPark Royal系の二つが同居するという珍しいケースもあります。

新宿の歌舞伎町タワーに入る Pan Pacific Hotel 同タワーHPより

東京では長年、高級ホテルが足りない、とされてきました。この根本問題は外国人スタンダードと日本人のそれがあまりにもかけ離れていたことが要因です。我々の多くは出張に行っても「どうせ寝るだけだから」で、ベッドとシャワーとテレビぐらいあれば後はスペースは極小でも構わなかったわけです。もちろん、日本の不動産が高かったというバブル前の余韻もあります。

北米でも90年代ぐらいまではゴージャスなホテルというよりも、シティホテルの多くはコンベンション型ホテルで宿泊費が1-2万円程度で収まるか、ハイウェイのロードサイドホテル、いわゆるモーテルで駐車場代とセルフの朝食込みで8000円-1万円ぐらいが主流でした。ところが大手ホテルチェーンがブランドの細分化を進め、ラグジュアリー化を進めたり、マリオットのWホテルなど顧客ターゲットを絞り込んだホテルを次々と開発したのです。

日本の2000年代から2010年代はデフレ時代で「外資?」「広いスペース?」「高級ホテル?」で商機を逸していたともいえます。一方、ホテルビジネスは金がかかるもので3年に一度のマイナーリノベーションや7年に一度は大規模リノベーションが必要とされますが、日本のホテルはその改装費用が出せず、使い込んだ感に溢れ、カーペットも色あせたセピア色の大規模ホテルは確かにあったのです。

私に言わせればバブル崩壊後の少なくとも20年以上は業界自体が眠っていた、そしてその間にアパホテルのような日本のサラリーマン受けするホテルだけが続々と建設されてきたと考えています。

価格設定は日本は一人当たりでチャージしますが、北米は一部屋いくらですので二人で泊まる場合は日本は2倍の価格になることを考えれば東京のホテル価格も世界水準に近づいていると思います。今後も相当の外資系のホテルチェーンが日本を目指しているとされ、タイのセンタラ系も7月に大阪に開業しました。個人的にはある程度の潜在需要はあると思いますが、日本人物価の感覚と相当の差がありますし、日本企業で一泊5万円のホテルを出張費で出してくれるところは役員クラスと察します。

一般の方が許容できる宿泊価格の水準を上回るので外国のお金持ち様頼みということになるのでしょうか?ただ、個人的には外国人が個人旅行や出張でホテルを選択する場合、アパ、カンデオ、藤田観光、東横、東急、JR系のように外国での知名度が高くないブランドにはどうしても手が伸びない点で外資系というより国際ブランドとの棲み分けが進んでいるのではないかと想像しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月2日の記事より転載させていただきました。