自民党「パリの憂鬱」と「イエ中心主義」の向こう側

残念きわまりない、38人のパリ視察

すでにネットやテレビ他でも大きく報じられましたが、自民党女性局のフランス視察。一連の炎上は、解散間際かと仄聞される衆議院の解散総選挙にも少なからず影響を及ぼすかも知れません。

自民 松川るい氏 仏研修中エッフェル塔前で撮影写真投稿 陳謝

自民 松川るい氏 仏研修中エッフェル塔前で撮影写真投稿 陳謝 | NHK
【NHK】自民党の松川るい女性局長は、フランスでの研修中にエッフェル塔の前でポーズを取って撮影した写真をSNSに投稿したことについ…

自民研修、エッフェル塔前で撮影

自民研修、エッフェル塔前で撮影
 自民党女性局がフランス研修中に撮影したとされる写真が交流サイト(SNS)上で「観光旅行のようだ」と批判を浴びている。問題視されたのは女性局長の松川るい参院議員がパリの観光名所、エッフェル塔前でポーズを取った写真。松川氏は31日「真面目な研修なのに、私の投稿のせいで誤解を招いてしまった」とSNSに投稿し、この写真を削除...

報じたのがPV狙いのスポーツ新聞や週刊文春ならいざしらず、NHKやロイターなど公共性の高い機関も報じていることは、決して軽いことではありません。だからと言って野党が口撃材料にするのも見当違いですが、せめてガチの会議や視察に関する画像が大半で、その中の「移動中のオフショット」ならまだ理解できたものを・・・。

私の場合、怒りよりも先にため息が漏れました。岸田総理も、さぞかし憂鬱な思いにかられたことでしょう。

今回は党の女性局が主催ということで一緒くたに見られる方々も気の毒ですが、それでも私は昨年の「ある一冊」がきっかけで自民党の女性、それも新人候補の方々には大いに期待を寄せています。

rudall30/iStock

起死回生の一冊となるか、『自民党の女性認識』

毎年暮れに尾崎行雄記念財団が選出している「咢堂(がくどう)ブックオブザイヤー」。最長不倒の衆議院議員・尾崎行雄の雅号を関する書籍の賞ですが、尾崎財団では昨年、安藤優子氏の『自民党の女性認識-「イエ中心主義」の政治指向』に選挙部門大賞を贈りました。

当時の選評は次のとおりです。

選挙部門の安藤優子氏『自民党の女性認識」は書名が示すとおり、自民党において選挙候補者がどのように擁立され、そして有権者への選択肢として提示されているのかを丹念に分析した、選挙の在り方を考えるうえでも有益な研究成果です。「女性代表が国会においてかくも少ないのか?」そして「なぜ、女性に対する認識が政治の世界で障害になっているのか」が丁寧に解き明かされています。中でも候補者のキャリアパスに関する考察は秀逸で、同党の支持如何に関わらず、すべての有権者が選挙の際に考えるべきテーマでもあります。

わが国における女性の政治参加不振は自民党に限った話ではなく、恐らく各党とも共通の課題です。書名こそ自民党をテーマとしていますが、その実はわが国における根深い課題であり、各党が「性別に関係なく、能力のある人材を登用する」ことに対してどれだけ本気かが問われます。

松川さんのエッフェル塔ポーズでミソを付けた感は否めませんが、それでも最近立て続けに支部長就任が決まった自民新人候補の顔ぶれは錚々たるもの。私は大いに期待を膨らませています。

その筆頭格ともいえるのが、ツイッター界隈で話題の東京8区・かどひろこ(門 寛子)さん。

経産省出身として霞が関アカウントの中でもひときわ異彩を放ち、肩の力を抜いたツイートには私も注目していました。先日の転身表明にはさすがに驚きましたが、不思議と違和感はなかったです。かつて尾崎行雄が唱えた政治家の条件のひとつ「出たい人より、出したい人を」にも適っており、それ以上に「ブラック」の悪評いちじるしい霞が関を変えてくれるのでは。そんな期待が膨らみます。

門さんだけではない、「むこじゅん」の愛称で政策通としても知られる北海道8区・向山淳さん、農水省出身の東京新18区・福田かおるさんなど、即戦力が期待される新人の相次ぐ擁立は、前掲書の影響が少なくないのでは。私はそう捉えています。

かつて尾崎財団は憲政史上初の女性官房長・森山真弓法務大臣を理事長に戴いていました。各氏が「パリの憂鬱」を他山の石として堅実に歩まれたら、第2・第3の森山理事長がいずれ誕生するかも知れない。そう期待しています。

森山真弓・元官房長官

女性活躍は不偏不党、すべての党が頑張れ

先に自民党の注目候補について書くと与党寄りの誹りをあびるかも知れませんが、あくまでも私の場合は党よりも人物本位の不偏不党です。与党でも駄目なものは駄目だし、野党でも光る人物は大いに評価したい。むしろ政治のバランスを考えると、与党よりも野党こそが自民党に負けじと頑張っていただきたい。そうエールを送りたいです。

立憲民主党ならば北海道7区・しのだ奈保子さんや埼玉3区の竹内千春さんなどの法曹出身者が即戦力として期待が持て、国民民主党では千葉5区・岡野純子さん、愛媛1区・石井智恵さんをはじめとする議会経験者の方々は地方分権の旗手として期待が膨らみます。

もちろん、ここでは書ききれない多くの女性候補者にも期待を寄せています。彼女たちが来たる激戦を勝ち抜け、国会で大いに論戦を戦わせてほしい。そう願います。

「イエ中心主義」の政治の世界において、今なお険しい女性の政治道ですが、かつては近藤鶴代さん松谷(園田)天光光さんなど1946年に初当選を果たした39名の女性議員たち、そして前述の森山真弓さんなどは男ばかりの「道なき道」を切り拓いて来ました。

左:近藤鶴代議員、右:松谷天光光議員

それゆえ先人たちに想いを馳せ、前掲書の元となった安藤優子さんの博士論文「国会における女性過少代表の分析」を、いつか過去のものにしてほしい。そして「イエ中心主義」の向こう側にある扉を、ぜひとも党派を超えてこじ開けていただきたい。尾崎行雄もきっと、そう願っていることでしょう。