イランで公務員や銀行員は2日間、休業するという。理由は50度にも迫る灼熱による健康被害を最小限度に抑えるためという。40度を超える灼熱が続き、一時期山火事で観光地が大災害を受けたギリシャではロードス島の山火事もようやく抑えられ、落ち着きを取りもどしてきた。
ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相が2日、山火事などで観光地から旅行カバンを放置して避難した外国人ゲストに対して、「来年、無料でギリシャに観光できるように補償する」と公約したというニュースが流れた。観光立国ギリシャとしては国を挙げてのイメージ改善対策だろう。
スペイン、ギリシャ、イタリアの南欧の灼熱と山火事を見ていると、地球温暖化や気候不順に批判的な欧州国民も心穏やかでなくなる。オーストリアの過激な環境保護グループ「最後の世代」(ラスト・ジェネレーション)の関係者は2日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで、「欧州の現状をみれば環境が破壊されてきていることは明らかだ。もはや悠長なことを言っている場合でない。地球レベルで環境保護対策を実施しなかれば大変なことになる」と警告を発していた。
問題は、環境保護では専門家の間で見解が分かれていることだ。「地球レベルの危機」と主張する専門家がいる一方、「地球の歴史では冷却期や灼熱期が交互にあった。現代の環境問題もその長い歴史から見たら決して特別な現象ではない」と指摘する。
ところで、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議長に選出されたジム・スキー(Jim Skea)氏は、「気候変動が人類にとって存在の脅威とする主張には反対だが、このままでは地球はより危険な場所となることは間違いない」という。ちなみにIPCCは、国連のジュネーブに拠点を置く機関だ。IPCCは5年から7年ごとに気候科学の最新知識をまとめ、加盟国の政策に対する行動提案を行っている。今回のIPCC報告書は2018年から2022年末までの内容をまとめたもので、加盟国の環境保護対策への土台となるものだ。
IPCCのスキー新議長は、ドイツの複数のメディアに対して、「気候変動に関連する絶望的な警告は人々を麻痺させ、気候のための有益な行動を妨げる可能性がある」と強調し、「私たちは絶滅しない。気候活動家による架空の世界の終焉の警告が問題を引き起こしている。気候変動による人類への存在の脅威はない。地球は1.5度以上温暖化しても滅びることはない」と繰り返し強調した(工業化以前の時代と比較して1.5度まで地球温暖化を抑制することは、パリ協定の目標の一つ)。
ただし、「気候変動の結果、人類は絶滅しないが、更なる温暖化が進行すると、より危険な世界が生まれてくる。特に、社会的な緊張が大幅に増加するだろう」と指摘することも忘れなかった。要するに、新IPCC議長は過激な環境保護グループの終末論に警告を発する一方、国際社会には連帯して環境保護への対応を呼び掛けているわけだ。
ドイツやオーストリアでは「最後の世代」という過激な環境保護グループが台頭してきた。その名称は、「私たちは気候変動の影響を感じた最初の世代であり、それに対して何かが出来る最後の世代だ」と述べたバラク・オバマ元米大統領の2014年9月23日のツイートからとったもの。
「最後の世代」のメンバーには良し悪しは別として強い終末観がある。「今立ち上がらなければ遅い」といった強迫観念だ。社会から批判され、罵倒されれば、逆にその信念と結束を強め、言動を過激化してきている。
参考までに、オーストリア日刊紙クライネ・ツァイトゥングは2023年1月22日、「最後の世代」の運動が宗教的な衝動で動かされている面を指摘している。「彼らは世界の終わりが差し迫っていると信じており、人々に改宗を求めている。歴史的にみて決して新しいことではない。キリスト教とそれによって形成されたヨーロッパの歴史は、世界の終わりとその預言者の歴史でもあった。『地球は燃えている』という叫びは、私たちの文化的記憶に定着している。火と硫黄に沈む様子は、ヨハネの黙示録の世界だ。この地球上の最後の世代であるという考えは、既存の世界の終わりと新しい世界の夜明けを期待した初期のクリスチャンの姿と重なる」と分析している。
IPCC新議長を擁護するつもりはないが、神は40日間の大洪水後、ノアに対して「私はもはや2度と人類を滅ぼさない」と約束し、その契約の印として雲の中から虹を見せた(旧約聖書「創世記」9章)。環境問題で議論が湧く時、神の「ノアへの約束」を思い出すことは冷静さを取り戻す上いいことだ。パニックを避けるべきだ。
地球に住む私たちは環境対策に取り組むべきだ。IPCC議長が指摘しているように、そのための技術と知識は既にある。それらを有効に利用して、地球レベルの視点から問題解決に取り組むべきだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。