洋上風力疑惑と秋本真利についてのまとめ

池田 信夫

共同通信

再エネ議連事務局長の秋本真利議員の事務所が、東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。これについては、私が昨年6月に

とツイートした。これに対して秋本は名誉毀損訴訟を起こしてきたが、先月14日に秋本の弁護団8人は全員辞任してしまった。後任は決まっていない。

これについては今年2月のアゴラの記事で簡単にまとめたが、入札ルールの変更については去年6月の記事でくわしく書いた。

入札が始まってからルールを変えた

洋上風力は、2020年から始まった合計4500万kW、総事業費15兆円の大プロジェクトで、2021年12月に最初の3件の公募入札の結果が発表されたが、その結果に業界は驚いた。

第1回入札の評価点と価格

事前の予想では早くから参入を表明していたレノバや日本風力開発などが落札するとみられていたが、結果は三菱商事グループが11.99円~16.49円/kWhと他社に5円以上の差をつけ、3件すべてを落札したのだ。

これでレノバの株価は6000円台から1200円台に暴落した。業者は政治家を使って巻き返しをはかり、エネ庁の担当者を呼び出して恫喝を繰り返した。再エネ議連の柴山昌彦会長は「毎週、議連の会合に役人や業者を呼んで、入札の問題点等について聞き取りを行ってきました」と認める。

この結果、いったん決まった入札のルールが、1回目の入札結果が発表されてから変更される異例の事態になった。5月に入札ルールが変更され、6月に行われる予定だった第2回の入札は2023年6月に延期され、審査方法も変更された。

「価格」から「迅速性」に重点を移したルール変更

その最大のポイントは、三菱商事グループの最大の強みだった価格のウェイトを下げることだ。全体で240点のうち、価格点が120点というのは変わらないが、業者の出した価格が最高評価点価格以下の場合は一律120点と評価することになった。この「最高評価点価格」は未定だが、たとえば20円/kWhと決めれば、三菱商事もレノバも同じ120点となる。これでは入札とはいえない。

そして事業実施能力80点の中でも事業計画の迅速性に重点が置かれた。これによって早くから地元工作をしていたレノバが有利になるが、肝心の入札は1年延期されるという支離滅裂ぶりだ。

第1回入札から第2回への評価点の変更(経産省資料)

こうした一連の工作を仕切ったのは、レノバ会長の千本倖生氏だ。彼はNTT出身だが、第二電電やPHSやイーモバイルなどで政界工作をやった「政商」である。事業としてはほとんど失敗だったが、会社と一緒に電波を売却して大もうけした。彼はこの7月、京大の経営管理大学院の特命教授に就任した。

ゲームのルール変更を仕組んだ再エネ議連

このあからさまな政治介入を日本経済新聞が報じたのを河野太郎氏は警戒している。

これは語るに落ちている。今回のドタバタ劇の主役はエネ庁ではなく、再エネ議連だと告白したようなものだ。再エネ業界の錦の御旗は「迅速性」だが、エネルギー産業のターゲットは2050年であり、2030年か31年かは大した問題ではない。

それより三菱商事が12円で落札した洋上風力が、レノバや日本風力開発に20円で落札されたら、これは再エネ賦課金に反映され、最終的には数兆円の国民負担になる。

さらに問題なのは、再エネ議連事務局長の秋本真利議員が風力発電事業者5社から3年間で1800万円の政治献金を受け取っていたことだ。今回の東京地検の捜査では、秋本議員は日本風力開発から3000万円を受け取ったとされている。これは政治資金収支報告書に記載されていない裏金である。

レノバからの資金提供をめぐる疑惑

このような政治献金をめぐる疑惑について、今年2月に国会の予算委員会で立憲民主党の源馬謙太郎議員が質問したが、秋本議員は「詳細は答えられない」と答弁している。


レノバの株主だった秋本議員は、すでに公示された入札ルールを変更させようと、昨年2月17日の衆議院予算委員会で萩生田経産相に「より早く、より安易に、政府の目標を確実に達成するためには、第二ラウンドからルールの変更をしていくべきだろう」と質問した。国会質問は、国会議員の職務権限である。

萩生田氏は、このとき初めて洋上風力の話を聞いて「詳細は承知していない」と答弁している。河野太郎氏のいう「個人的にはいろいろな仕組みを見てみたかった」という話は、あとから辻褄を合わせた話である。

このときすでに第2ラウンドは2022年5月に入札を行うことが公示されていていたが、異例のルール変更が行われ、今年3月に延期された。この新ルールは明らかにレノバに有利になった。

今回の家宅捜索は秋本事務所だけだが、日本風力開発も事情聴取を受けており、レノバにも捜査が及ぶだろう。秋本については特捜部も十分証拠を固めており、焦点はそれがどこまで「本丸」に及ぶかである。