若者が持ち家できる日は来るのか?

先日、取引先銀行と昼をご一緒しました。日本では基本的に取引先銀行と「濃密」な関係は社内規定で許されないと思うのですが、こちらは営業担当が案件ごとにいろいろな専門家も紹介してくれます。その際、銀行の打ち合わせ室での無味乾燥な挨拶よりも喫茶店や食事の方がちょっと砕けて本音も引き出しやすいのでしょう。頻繁にあるわけではありませんが、日本のような杓子定規で堅苦しさがない点は良いですね。

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その際、ちょっと脇道にそれた話になり、「バンクーバーの平均住宅価格が1億円を超える中でどうやったら若い人は家を購入できるのか?」という話題になったところ、意外な回答が戻ってきました。「買わないのです」と。「は?」です。曰く、「若者の消費性向は強く、稼いだお金を全部使ってしまっている。将来については(カナダには相続税がないので)親の住宅なり、親に買ってもらうなりで賄うのだ」と。では親が家持ちでない場合はどうするのか、といえば「それは自助努力か諦めるしかない」と。個人的にはこのコメントは消化不良です。

今、住宅ローンはざっくり固定で6%台。こんなに高ければ借りるのも躊躇します。「どう見ても買えないですよね?」といえば「ひろ、ではこう聞こう。僕がひろに今、100万円を3%の金利で貸してくれと言ったら君は僕に貸すかい?」と。「そりゃ、NOだよね。だって今、定期預金は5%の金利が付くからね」「そうでしょ。だから住宅ローンの6%の金利は妥当だし、それを払ってでも住宅が欲しいという客はたくさんいるんだ」と。

これ、実はとても含蓄がある話なのです。日本人は借金をあまり好みません。バブル崩壊後、企業が銀行からの借入金を返済し、社債などに切り替えていったのは銀行のイメージの問題もありますが、日本人は本質的に借金が嫌いなのです。例えば皆様のお子さんが「オヤジ、家を買うので35年ローンで7000万円借りたよ」といえばまず間違いなく「それ、返済できるのか?」と聞き返すでしょう。欧米は違うのです。「おお、息子よ、良く借りてきたな。お前の社会的信用も大したものだ」と。

では日本の場合はどうなのでしょうか?消費についてはカナダと同様、稼いだお金はほとんど使う、この傾向は鮮明に見えます。日本人の20代の平均貯蓄額は344万円ですが、中央値は201万円、また貯蓄ゼロは37%とあります。住宅を購入するには長年の貯蓄を頭金にすることを考えれば今の不動産価格と見比べてもこれでは住宅ローンの審査以前の問題になってしまいます。問題はカナダのように親からもらえるあまり減価していない不動産があればよいのですが、貰っても築40-50年の相当使い込んだ家。それを建て直すにも改築するにしてもそのお金がない、という感じではないでしょうか?

では若者は路頭に迷うのか、といえば実際に先日の立ちんぼの話ではないですが、極端な例もあるものの日本に空き家が800万戸以上あり、年間77万人しか生まれないなら論理的に路頭に迷うことはないのです。これはある意味、日本が豊かになった証でもあるし、昭和の人たちの遺産だともいえましょう。仕組みは簡単です。空き家の所有権、ないし地上権を政府機関/地方自治体が買い上げ、それに最低限の改築を施して低所得者住宅として市場に流すのです。ならば5-8万円で貸せるでしょう。ベーシックインカムの一種の応用です。

ただ、私が本質的にカナダもアメリカも日本もおかしいと思うのは低所得者住宅がはびこれば人間が本来持つべく「成長」する必要がないので「惰性の人生」になりかねない危惧であります。カナダやアメリカでフロントラインでてきぱき仕事をこなすのはアジア人やヒスパニックなどの移民だったりするのです。この構図は私が知る限り何十年も変わっていません。つまり、北米は頑張る人と親の遺産に依存する人の共存ながらも双方がうまくかみ合い、国家経済が廻るのです。しかし、日本の場合、相続税でがっぽり持っていかれるので社会にお金が還流しにくいと感じます。一流企業勤めの人や起業家や自営業で頑張る人だけでは経済は廻わしきれません。

私は東京でシェアハウスやサービスアパートメントの運営もしています。シェアハウスの需要は10年前のブームが沈静化し、供給側の選別化が進みました。その間で思うことはシェアハウスの顧客の在住期間が大幅に長くなっている点です。私のところだけを見れば入居から3年以上の人はザラです。つまり、一定の住環境さえあれば変わることを望まず、成長無きフラットな生活をされる傾向が強まったと推測しています。また親と同居するパラサイトも相変わらず多いようです。

日本の陽は再び昇ると期待はしていますが、一流の選りすぐりの話を聞くのと広い視野で社会の隅々まで見たうえで実態を探るのとではずいぶん違う絵図である点について皆さんとシェアしたかったところであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月4日の記事より転載させていただきました。