コロンビアで初の左派大統領ペトロ氏、長男が逮捕される

大統領の息子であるニコラス・ペトロ氏とグスタボ・ペトロ大統領 panampost.com

麻薬組織の資金がペトロ大統領の選挙選に使われた

南米コロンビアでグスタボ・ペトロ大統領の長男でアトランティコ県会議員ニコラス・ペトロ氏(37)が麻薬密売者や企業家から提供された彼の父親への選挙資金の大半を着服。その一部だけを父親の大統領選挙資金に充てた疑いで7月に逮捕された。

コロンビアは長年米国からラテンアメリカで最も信頼された国。これまで右派から大統領を常に輩出していた国だ。その信頼度合いは、ラテンアメリカでコロンビアは「米国の航空母艦」と称されているほどだ。

実際、同国には米軍基地が9か所ある。その背景にあるのは、コロンビアが米国への麻薬供給国では最大であった(現在はメキシコが最大供給国)ということが理由にある。というのも米国は麻薬で社会的に多大の被害を受けているからである。その為、米国は早くからコロンビア政府に協力して麻薬の生産を取り締まることに務めて来た。

また、国境を接するベネズエラでチャベスそしてマドゥロと反米主義の大統領が誕生したことで、米国にとってコロンビアの存在はより重要となっている。

ペトロ大統領の長男の元妻がスキャンダルの導火線となった

そのようなジオポリティクスにあって、昨年8月にコロンビアで初の左派系の大統領が誕生した。それはコロンビアの政界そして米国にとって受け入れがたいものとなっている。だから、ペトロ大統領を解任させる動きは水面下で発生しても不思議ではない。

その最初の動きが今回のペトロ氏の長男の逮捕である。その発端は彼の元妻ダイスリス・バスケス氏がコロンビアの週刊誌セマナに今年3月、ニコラス・ペトロ氏が6億ペソ(2100万円)をサンタンデール・ロペシエッラ氏から受け取っていたことを明らかにしたのだ。ロペシエッラ氏は元麻薬密売人で米国の刑務所に服役していたが、刑期を満たした後コロンビアに戻り地元の政界と強い関係をもっている。

更に、元妻は4億ペソ(1400万円)をコロンビアの北部の企業家アルフォンソ・イルサカ氏からも受け取っていたとも語った。彼女によると、10億ペソ(3500万円)が別のルートからも入金されていたという。(7月29日付「ABC」から引用)。

検察側が捜査を進めているのは、これらの資金が実際に彼の父親の選挙資金に使われたか否かということである。

8月3日、ニコラス・ペトロ氏は自分が受け取った資金の多くを彼自身が着服し、残りを父親の大統領選挙資金に充てたことを検察側に供述した。それを複数紙が明らかにした。(その一紙 8月3日付「ABC」から引用)。

昨年の大統領選で右派の対立候補だったセルヒオ・ファハルド氏はニコラス・ペトロ氏のこの供述によって与えたインパクトから、「政府は昏睡状態に陥っている」と表現した。

ベネズエラのマドゥロ大統領も選挙資金を提供していた

ところがペトロ大統領に纏わる問題はこれだけではない。べネズエラのマドゥロ大統領から提供された資金も昨年の大統領選挙選に使われたということが6月に明るみされた。その金額は1億5000万ペソ(525万円)。

それを明らかにしたのは大使のポストを解任させられた前ベネズエラ大使のアレハンドゥロ・ベネデティ氏だ。彼は大統領選挙選では参謀を務めた人物だった。(6月4日付「エクスペディエンテ」から引用)。彼がそれを暴露したのは、その恩を忘れたペトロ大統領から冷遇されたからであった。

マドゥロ大統領が期待していたのは、隣国コロンビアで彼の味方になってくれる大統領が誕生することを望んでいたからだ。ペトロ大統領はゲリラ組織M-19の元戦闘員だった人物で、この組織が解散となった後に政界入したのである。

実際、ペトロが大統領になってからベネズエラで暫定大統領として活動していたマドゥロ大統領の敵グアイドー氏へのコロンビア政府からの支持は全く消滅した。

ペトロ大統領の任期満了まで残りまだ3年ある

ペトロ氏は大統領に成る以前に首都ボゴターの市長そのあと上院議員を歴任した。彼は上院議員として政府を批判することは得意であった。ところが、彼が実際大統領になってからこれまで2回の内閣改造で10人の閣僚が解任された。しかも、彼が選挙で公約していた改革案についても、どれも法制化されていない。

また彼に連携していた左派と中道の政党は既に彼から離れた。現在のペトロ大統領はひとり孤立している状態だ。最近のDatexcoによる世論調査でも支持率は26%まで下がっている。(6月6日付「エル・パイス」から引用)。ペトロ大統領の政権運営能力はほぼゼロに等しい。

コロンビアではこれまで大統領が罷免されたことはない。30年程前にエルネスト・サンペール大統領が麻薬組織カリから政治資金を受け取っていたことが明かになりサンペール大統領が逮捕されるというスキャンダルが起きたこともあったが、彼が罷免されることはなかった。

ペトロ大統領に任期はまだ3年残っている。しかし、ペトロ大統領にこれまで味方していた中道並びに左派連合は彼から離反している。果たして彼が任期満了まで大統領のポストに就いていることができるか疑問である。