魚も食べない、日本酒も飲まない、食文化の行方

先日、日本酒啓蒙のセミナーにお招きいただき、試飲を兼ねて日本酒のうんちくを1時間半ほど伺いました。教室のようなテーブルに皆で座り、講師とプロジェクターを前に次々出される日本酒を飲んでいるとなるほど、その違いが単に舌で感じるだけではなく、頭の中で理解が進んだような気がします。

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海外では日本酒ブームとされます。2022年度の日本酒輸出量は過去最高で、約3.6万キロリットル、金額で470億円強となっています。最大消費国は中国、そのあとアメリカ、香港と続き、この3つで輸出全体の2/3を占めます。一方、国内の消費量はといえば21年で40万キロリットル、つまり輸出の約11倍ですが、ピークだった1973年の177万キロリットルから見れば1/4以下ということになります。

ここバンクーバーでも酒屋に行けば各種日本酒は揃っていますが、正直、自分用で購入したことはありません。理由は明白です。家で日本酒に合う食事を作らないからです。それとワインと比べると比較的高額。760ML入りで3000-5000円が中心価格帯なので日本酒を購入するなら結構レベルの高い白ワインがゲットできます。もちろん、寿司屋に行けば時折日本酒が飲みたくなるのですが、私は日本酒は基本は燗。日本でも日本酒を買うことがありますが、個人的に芳醇な味が好きなので燗にすることがほとんどなので売れなくなったとされる清酒でOKです。

では当地のレストランで日本酒はお見掛けするか、といえば安い居酒屋では清酒ぐらいで、高級店や寿司店だと日本酒のラインアップを提供していますが、若い人がアルコールを飲まなくなったので日本酒を注文する人自体、あまりお見掛けしません。

私は韓国料理店に行くとなぜか韓国焼酎(ソジュ)を飲むことが多いのですが、韓国人の若者がソジュでおだを上げているケースはほとんど見かけず、どちらかといえば韓国のおじさんたちが声高にしゃべっているという感じでしょうか?中華料理店で白酒を飲んでいる人はほとんど見ないし、紹興酒を注文するのは日本人と相場が決まっているようです。日本人ご用達の中華料理店では紹興酒を頼むと黙って砂糖も出てきます。ちなみに紹興酒で砂糖を入れるのは昔の紹興酒の品質が悪かった名残で紹興酒には砂糖を入れると思い込んでいる日本人の勘違いです。

さて、日経には「魚から遠ざかる日本人 消費ほぼ半減、値上がりが拍車」とあります。日本人の魚介類の消費量は01年が40キロ/年/人が21年には23キロまで減っているそうです。理由は調理が大変ということですが、価格と満腹感もあるのでしょう。焼き魚や刺身で腹いっぱいとはならないのです。

それと昔から言われているように魚をさばけない人が多いことが価格を押し上げていることもあります。三枚におろすのはさほど難しくないのですが、たぶん内蔵を取るのが気持ち悪いこともあるのでしょう。コンロについている魚調理器を使っても後の掃除は大変だし、魚のにおいがつくこともあります。

そして私はこれを書きながら気がついたのです。カナダにいる限り、刺身は食べるけれどそれ以外の調理方法では魚はほとんど口にしていないなぁ、と。煮魚も焼き魚もほとんど食することがないのです。自分の選択肢から完全に落ちてしまっているのでしょう。残念ながら当地は魚の種類が少なく、価格は目の玉が飛び出てしまいます。理由は漁業関係者や加工にかかる労賃の上昇と商品衛生上の要求度が高まっていることもあります。するとどうしても肉食を選択せざるを得ないのです。

こう見ると食文化は確実に肉食、そして更に植物性の肉になっていくのでしょう。それに合わせる飲み物はただでさえアルコールを飲まなくなった若者にどう日本酒を啓蒙するのか、相当の工夫が必要だと思っています。個人的にはスパークリング日本酒は売り出しやすいと思います。もともと炭酸系の飲み物は胃袋を炭酸ガスで膨らませ、食欲そそそるものとされます。アペリティフ(食前酒)にシャンパンやカンパリソーダなど炭酸系が多いのはその理由。ランチでコーラとハンバーガーはまさに胃袋を膨らませてでかいハンバーガーにかぶりつくというストーリーなのです。

食文化の発展的成長という点ではお金を出せばそれなりのものが食べられますが、北米で一般大衆がグルメ食にこだわるとは思わないし、食への固執はアジア人に比べてかなり落ちる、というのが私の実感です。

例えばメキシコあたりでは魚料理はよく出てくるのですが、開いた魚を焼いたものがそのままドンと出てきます。調理なんてほとんどなくてそれにライムを絞るだけという感じです。今の人には淡泊すぎるでしょう。その点では魚も日本酒もニッチマーケットでむしろマーケットを生み出すための発想の転換が必要だと感じています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月7日の記事より転載させていただきました。