最終回を迎えた東芝劇場の将来

本ブログでは東芝問題について折々10数回取り上げてきたと思います。お読みの方にはあまりポピュラーなテーマではなかったのですが、個人的には典型的な日本企業がどのように変貌するのか、壮大なる企業ドラマとして見続けてきました。その東芝、日本産業パートナーズとそれに連動する20数社の日本企業によるTOBが8月8日からいよいよ開始されます。

東芝HPより

成立はすると思います。なぜなら外資にとってもう、東芝は「光る東芝」ではないからです。トラブル発生から8年、蛍光灯は既にチカチカしていますが、新しい息吹が生まれる気もしないのです。

東芝は結局、不正問題がなくてもこういう運命を辿った、それが私の思うところです。時代の流れは明白でした。無数の子会社や関連会社を抱え、一種の財閥気取りの如く、テレビコマーシャルのテロップに延々と関連企業の名前が流れるのを見て「お父さん、この会社はこんなにたくさんいろんなことをしているんだね」というのはサザエさん世代のホンワカした時まででした。

バブル崩壊の時、海外と不動産は悪とされ、銀行主導の「本業回帰」という大号令が出た時でさえ、重電各社は涼しい顔でした。が、時代は確実に変わります。「お好み食堂型経営からより本気の一本勝負」であります。その間、日立は主流と非主流に仕分けしました。日立の成長に必要な関連会社群とそうでないものを明白に分け、持てる力を主力事業に注ぎ込む戦略を段階を経ながら着実に実行してきました。かつて重電トリオと言われた日立、東芝、三菱の御三家は結局、東芝だけが取り残された、という気がするのです。

東芝の最大の失敗は原子力発電と半導体という好不況の波が激しく、リスクが大きいビジネスを2つ抱え込む選択をした経営者の采配ミスであったのはほぼ自明です。が、それ以上にウエスチングハウスについては日本企業の最大の弱点であった「買収した外国企業を経営できない」ことを改めて具現化し、最後には倒産させてしまったと言ってよいでしょう。そのウエスチングハウスはカナダの巨大投資企業、ブルックフィールドが一旦購入、その後、ブルックフィールドの再生エネルギー部門とウラン精製の世界最大手であるカナダのカメコが51:49で買収しています。カメコは業績絶好調で、個人的にはウエスチングハウスが酷い会社だったのではなく、東芝がコントロールできなかったのだろう、とみています。

東芝の迷走のもう一つの問題は経営者が誰なのか顔がわからなくなっていた点です。これは日産がゴーン問題とルノー問題で激しい開発競争が展開される中で2周遅れとなってしまったのと極めて似ていると言えます。この遅れを取り戻すのは簡単ではありません。それでも日産の場合はEVにシフトするという明白な方向性があるのでひたすら走り続ければ奇跡も起きるでしょう。東芝の場合は何がコア事業かわからなくなってしまった、ここに最大の問題があるのです。

東芝が会社分割という選択をしようとした時、電機の雄、アメリカのGEが先鞭をつけていました。GEの3分割プランは現状、半分まで進みましたが大成功だったと思います。実は私はほんの少しだけGEの株を持っているのですが、GEヘルスケアが分離上場し私にも同社の株式が分配されました。その後、GEとGEヘルスケアの株価は順調に上昇しています。来年初頭にはエネルギー部門のGEベルノアが上場し、3分割は終了、GE本体はGEエアロスペースに社名変更します。長期投資になりましたが、我慢の甲斐があったかもしれません。その頃、カナダの目薬、ボッシュロムも会社分割しましたが、こちらも同社の再生に大きな牽引となっています。

あの当時、会社分割は企業価値を高めるか、という議論があったと思いますが、私がそれらの会社に投資をしている限りにおいて「高められた」と考えています。但し、割れば何でもよくなるという発想ではなく、経営資源を集中させるという意味合いであります。その場合、経営陣が企業戦略構築に長けていればよいのですが、社内の専門家達が「おらが村自慢」をして足の引っ張り合いをしてしまえば結局うまくいかないことにもなりえます。

最後に私は東芝の株主にそうたる企業がずらっと並んだ形で非上場になることに非常に懸念をしています。東芝の経営陣はたぶん、経営方針やプロダクトを巡りそれら20数社との調整に明け暮れ、尖がった製品が出せず、株主の意向をうまく取り入れることに専念しなくてはいけなくなるとみています。この間違いも日本企業は何度も何度も犯しています。その点からすれば東芝劇場は最終回を迎えたけれど結局学んでいないし、成長する芽も生み出せるのかという点で大いなる疑問を残しながらのTOB成立までの最後のストレッチとなる気がしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月8日の記事より転載させていただきました。