ポーランドで10月15日、議会選挙(上・下院)が実施される。選挙の焦点は、2期、8年間政権を運営してきた保守系与党「法と正義(PiS)」が政権を維持するか、それとも中道リベラル派の最大野党「市民プラットフォーム」(PO)主導の新政権が生まれるかだ。選挙では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。複数の世論調査では、両党は拮抗している。投票日が決まる前から、ポーランドでは選挙戦は既に始まっている。
ここではポーランドの政界を少し振り替えってみる。ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに軍を侵攻させて以来、隣国ポーランドは一貫してウクライナを支援、欧州でもウクライナからの避難民を最も多く収容してきた。人道支援だけではなく、武器供与でも常に先行してきた。ちなみに、ポーランドは欧州の代表的なローマ・カトリック教国だが、ウクライナ西部地域には、ローマ・カトリック教会に近い東方帰一教会の信者が多いことから、昔から人的な交流がある。
ところで、アンジェイ・ドゥダ大統領が投票日を10月15日に決定したのは偶然ではないだろう。ヨハネ・パウロ2世(在位1978年~2005年)が1978年10月16日にローマ教皇に就任した日の1日前だ。与党PiSは、教会に通う保守的な有権者がPiSに投票してくれることを期待しているわけだ。
同国でほぼ全ての国民がカトリック信者だった時代は過ぎ去った。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会への信頼は失われてきた。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄であり、聖人だったがその神話は崩れてきている。カトリック教会の敬虔な信者で、保守的で愛国主義者を支持基盤とするPiSにとって、教会の影響力の低下は、即支持率の低下を懸念せざるを得なくなるわけだ。
ロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することでは与野党の間には大きな相違はなかったが、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、ウクライナ産の穀物がポーランドに輸送され、そこで取引される事態が生じてくると、ポーランドの農民たちが一斉にウクライナ産穀物の流入に反対した。政府は農民たちの苦情を無視できないので、ウクライナ産穀物の取引禁止といった対策を取らざるを得なくなってきたことから、ポーランドとウクライナ間で不協和音が一時期流れた。
PiS政権は総選挙を有利に進めるために、ロシアの影響を受けている政治家を公職追放する新法を成立させたが、その新法に抗議する反政府デモが首都ワルシャワで6月4日起きた。メディア報道によると、50万人が参加した大規模デモだった。新法は選挙での「野党排斥」が狙いと受け取られている。歴史的に見れば、ポーランド人はバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の国民と同様、ロシア嫌いで知られている。
また、ベラルーシでロシアの民間軍事組織ワグネルの傭兵たちがポーランド国境周辺で軍事訓練を受けていることから、ポーランドは警戒している。ブワシュチャク国防相は10日、国境警備の強化のため最大1万人の兵士を増派すると表明している。ポーランドはベラルーシと418キロの国境を接している。2021年、数千人の難民が両国間の国境からEUに不法に入ろうとしたことがあった。EU側は当時、ベラルーシのルカシェンコ大統領がEUに圧力をかけるために難民を組織的に国境線に集めていると非難した。いずれにしても、ポーランドの議会選挙は否が応にもウクライナ戦争の影響を受ける。プーチン大統領はポーランド選挙にさまざまな手段を駆使して関与していることは間違いない。
選挙ではPiSが第一党となろうがもはや過半数を獲得することは難しい。一方、野党の元首相で欧州連合(EU)大統領を歴任したドナルド・トゥスク氏率いるリベラル保守主義政党「市民プラットフォーム」がトップになっても、過半数には及ばないだろう。すなわち、投票日後の連立交渉が避けられないわけだ。
ちなみに、ポーランドのPiS政権はハンガリーのオルバン政権と同様、EUとは対立を繰り返してきた。その意味で、ブリュッセルとしては、親EU派のトゥスク氏が勝利して、政権交代が実現することを願っていることは間違いないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。