昭和の大戦の知られざる歴史の一面:井上和彦『歪められた真実』

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大東亜戦争は、占守島における日本軍の大勝利によって幕を閉じたのである

まもなく8月15日敗戦の日を迎える。日本は大東亜戦争で完膚なきまでに叩きのめされた。こういった日本史の定説に頷く人は多いであろう。大局的に見れば、日本が戦争に敗れたことは明確な歴史的事実である。

しかし、教科書では惨敗したかのように書かれている戦いにおいて、丹念に史実を追っていくと異なる「真実」が浮かび上がる。例えば、ガダルカナル島で日本軍は善戦し、米国軍を恐怖に陥れた事実は意外にも殆ど知られていない。

著者は本書において、日本社会で定説化した「歴史的事実」に真っ向から挑戦する。終戦直後の8月17日に上陸してきたソ連軍を追い返し、23日に停戦協定を結んだ占守島の戦い。著者は、これを日本軍の大勝利と総括するのである。

日本という国は、あなた方現代の日本人だけのものではありません。我々のような“元日本人”のものでもあるのです。日本人よ胸を張りなさい!そして自分の国を愛しなさい!

靖国神社には、台湾人約28,000柱、朝鮮人約22,000柱がご祭神として合祀されている。戦時中には日本軍の公募に志願者が殺到し、倍率は400倍以上にも達したそうである。

生前、日本から台湾への客をもてなす際、自国を愛せと激励したのは2017年に亡くなった蔡焜燦(さい・こんさん)氏である。台湾では故・李登輝元総統を始め、戦後日本が去った後の台湾を先導した多くの元日本軍人が国家中枢で活躍している。台湾原住民の総称で、各戦地で大活躍した「高砂義勇隊」なども広く知られている。

一方で、日本軍には多くの朝鮮半島出身の軍人たちがいたことを著者は指摘する。優秀な軍人たちであったので、戦後も新生国家である韓国の発展のため怒涛の大活躍をみせる。朝鮮戦争においては韓国軍の主力として活躍し、朝鮮半島の赤化を防いだのである。

そんな朝鮮半島出身の軍人の中で、義のため部下のため、戦後の軍事裁判で日本兵として処刑されることを選んだ洪思翊(ホン・サイク)氏がいる。朝鮮半島出身者として戦勝国から無罪放免されたにも関わらず、それを拒否して日本軍人として裁かれることを選んだ崇高な精神をもった武人である。

こういった過去の歴史を開陳することで、安易な嫌韓論などに陥らず広い視野で歴史を眺めるよう著者は読者に伝えようとしているのではないか。

安倍晋三政権時代の戦後70年談話には、こんな一節がある。

満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。そして70年前。日本は、敗戦しました。

評者はこの戦後70年談話が示す歴史観を、政治的に受け入れる。どこかで大東亜戦争を総括し、戦後に一区切りをつけて次世代が永遠に終わることのない謝罪の宿命を背負わされることを避けるためである。しかし、歴史の闇に葬り去られた多くの人たちや戦果を忘れてはならない、とも考える。

大義のために命を懸けて戦った人たちは、特攻隊員も含めて決して犬死したのではない。次世代に、この歴史の一面を語り継ぐことは現代日本人の責任である。