上がらない日本の労働生産性は何故?

ご承知の通り、日本は少子高齢化で生産年齢人口は低下の一途を辿っています。

日本の人口を超長期で見ると縄文初期の紀元前8000年頃は2万人、聖徳太子の頃の西暦600年頃が600万人、関ヶ原の合戦があった1600年頃は1700万人程度、明治維新が3300万人程度とされます。つまり約1万年かけて人口が3300万人まで増えたのに2008年には12800万人とわずか100年でほぼ4倍、9500万人もの人口増加を記録します。

今後、この人口はその反動を受けて急減する予想となっていますが、想像力を膨らませれば5000万人ぐらいまで来た時点で下落が止まるとみています。それは種の保存の法則から人間の理性がどこかで働くからです。

ではどこから5000万人という数字が出たのかといえば縄文時代から今日に至るまでの歴史的人口の平均推移線を作ればそのあたりが妥当であって、明治維新以降の人口急増が異次元の100年であったと22世紀になったら言われるのだろうと察しています。

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さて、少なくとも今後何十年にもわたり人口減に悩む日本ですが、100年前に比べたらはるかにマシ、東京は人が多すぎる…というご意見があるのは承知です。しかし、今、我々に明治時代の生活レベルに戻れと言われたらどうしますか?道路の舗装は直せず、電気はしばしば停電するのでろうそく、風呂はまきを焚く五右衛門です。

この100年の間に人口増と共に社会的インフラが整備され、技術や経済が発展し我々はそれを享受したのです。ですが、当然、それにはメンテナンスが必要なのですがそれが出来なくなるのです。

新潟県湯沢や伊豆あたりの一部のリゾートマンションが廃墟同然となっているのは所有者から管理費が入らないからです。つまりメンテが出来ず、モノを維持できなくなっているのです。

私が人口減少が日本経済に深刻なダメージを与えると長年指摘しているのは作り過ぎたインフラをどう維持するのか、そちらが問題なのです。

そこで人口減に対応するための一つの手段として労働生産性向上が重要な意味を成します。労働生産性の計算式は 生み出した付加価値の総額 ÷ 延べ労働時間(労働投入量)です。人口減とは分母が小さくなることを意味するので産出された付加価値の総額が一定であれば労働生産性は上がり、何ら心配はありません。が、残念ながら日本の労働生産性は長期低落気味なのです。

日本生産性本部の資料を見るとサービス業の生産性は2010年を100とすると2022年で95程度。機械化が進んだはずの製造業も2005年を100とすると現在は100を若干割る水準です。総合的な指数である名目労働生産性も就業者一人当たりの実質労働生産性も過去30年間ほぼ変わりなしなのです。

これはある意味信じがたい実情です。機械化、ロボット導入、ITにAIさらにはDXなど横文字がずらっと並ぶ今日において掛け声とは裏腹に全然伸びがないのです。ちなみにアメリカの労働生産性は1947年から2023年第二四半期までの平均が年2.1%増、2007年から23年までの平均も1.4%です。OECDでの比較は労働生産性は38カ国中23位、就業者一人当たりで見ても28位なのです。

ところで日経に「男性育休に代替要員の壁 職場8割『補充できず』」とあります。補充出来ないほど繁忙なのではなく、管理項目が増えただけで生産性が上がっておらず、結果として人材不足のように見えるのだとみています。

なぜなら繁忙なら労働生産性は上がるべきだからです。要はガバナンスなど社会ルールの変化対応に忙しく、本来あるべき生産活動に十分生かせていないのではないか、と分析しています。

ただ、見方を変えると日本の場合、労働生産性を上げるという取り組みよりも一人でも多くの労働者に労働の機会を与え、共に働くという神道の思想が根付いていることから今後も何をしても労働生産性は上がらないともいえるかもしれません。これは言い換えれば皆さんの給与は社会情勢に合わせて多少は上がるもののドラスティックな変化はありえない、ということになります。

日本には「分かち合う」という発想があります。それが労働に於いてはワークシェアであり、チームワークであり、アメーバ方式なのです。成績優秀で社内から表彰され、特別褒賞がある場合でも個人というより職場単位に提供されるケースが多いのではないでしょうか?

これを否定するつもりはありません。但し、それにしがみつきすぎると冒頭の問題、社会の維持が出来なくなるという問題に直面するのです。主たる労働はロボットにAIがやり、人間は補助的業務に留まるとしてもそれで給与が増えるわけでもないわけでもありません。これは一種のジレンマに陥っているように感じるのは私だけなのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月14日の記事より転載させていただきました。