日本共産党の「敵基地攻撃反対論」の危険性

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岸田政権の「敵基地攻撃能力」保有

自民党岸田文雄政権は、昨年末に策定したいわゆる「安保3文書」に基づき、抑止力及び対処力向上のため、防衛力の抜本的強化に取り組んでいる。

これは、2022年2月から続くロシアによる国際法違反のウクライナ侵略、中国の覇権主義に基づく大軍拡と台湾有事・尖閣有事の危険性、北朝鮮の核ミサイル開発の加速、などによる北東アジアの軍事的脅威に対処するためである。

具体的には、防衛費のGDP比2パーセントへの増額、敵基地攻撃能力(反撃能力)としての長射程ミサイルの保有、沖縄南西諸島への地対艦ミサイル配備などである。

このような岸田政権の防衛力強化方針に対し、とりわけ「敵基地攻撃能力」につき、日本共産党は、憲法9条の専守防衛を投げ捨て日本を戦争ができる国にするものだ、と激しく反対している。そして、軍事対軍事で対抗すればエスカレートし戦争になりかねないから、「東アジアサミット」など多国間の対話による外交的解決を目指すべきだ、と主張している。

この共産党の「反戦思想」の根底には、戦争はすべて資本家階級と資本家階級の植民地争奪戦争であり、労働者階級は資本家階級の犠牲になるだけとのマルクス・レーニン主義であるレーニンの「帝国主義論」のイデオロギーがある。

しかし、レーニンの時代はともかくとして、現代の戦争が資本家階級と資本家階級の植民地争奪戦争と言えないことは、ウクライナ戦争を見ても明らかである。「台湾有事」「尖閣有事」にしても同じである。

日本共産党の「敵基地攻撃反対論」の危険性

しかし、共産党の、長射程ミサイルなどによる敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が憲法9条の専守防衛違反であり絶対に許されないとの主張は、日本の安全保障上極めて危険である。なぜなら、中国や北朝鮮を見ても、極超音速弾道ミサイル・変則軌道ミサイル・ミサイル飽和攻撃など、核ミサイル開発が進み、現在の日本のミサイル防衛能力では迎撃困難となっているからである。

にもかかわらず、共産党が主張するように、憲法9条の専守防衛により、相手国のミサイル発射基地への反撃が絶対に許されないとすれば、日本は相手国のミサイル攻撃を甘受しなければならず、相手国のミサイル攻撃による日本国民の犠牲は計り知れない。このような共産党の主張は日本国民の命を危険に晒す極めて非合理な危険極まる主張である。

この共産党の危険極まる主張は、憲法上、日本を守る自衛のための自衛権の存在と、自衛権に基づく防衛力の保有を認めた最高裁砂川事件大法廷判決の趣旨にも違反する(最大判昭34・12・16刑集13-13-3225)。そのうえ、自衛のための敵基地攻撃が専守防衛に違反しないことは、1956年鳩山一郎首相の国会答弁以来の確定した政府解釈でもある。

日本共産党は基本的に自衛隊と安保条約を否定し「平和外交」のみで日本国民を守れるかの如く主張する。党綱領四では自衛隊の段階的解消と安保条約の廃棄を主張している。そして、「東アジアサミット」など多国間の対話の枠組みによる外交的解決を主張している。

しかし、多国間の枠組みである国連が機能不全であるように、「東アジアサミット」のような多国間の枠組では日本を守る安全保障上の有効な合意形成は極めて困難であり、その実効性も不確実である。米国との安保条約を廃棄し、その代わりにこのような枠組みに1億2000万人の日本国民の命を託すことはできない。「反戦」「反米」の共産党はこのような枠組みを意図的に過大評価しているのである。

国家の義務は、他国の侵略から国民を守ることであり、この義務は最終的には軍事力によって担保される(アダム・スミス著「国富論」上149和44年河出書房新社)。防衛力を持たない平和外交一辺倒が他国の侵略を誘発し極めて危険であるのは今も昔も同じである。

今回のロシアによるウクライナ侵略も、ウクライナの核兵器放棄が重大な誘因になった。1994年の「ブタペスト覚書」の米側の当事者クリントン元米大統領は、「ウクライナが現在も核兵器を保持していれば、ロシアが侵攻することはなかった」との認識を示し、「放棄を促したことを後悔している」(2023年4月6日共同通信)と述べた。示唆に富む極めて重大な発言であり、日本も教訓とすべきである。

中国共産党は毛沢東政権以来力の信奉者である。相手国の力が強ければ攻めず、弱ければ攻める。その意味で、今回の岸田政権による日本の防衛力の抜本的強化は、尖閣諸島を含め対中国の抑止力向上に極めて有効である。

「岸田大軍拡は戦争への道」「日本を新たな戦前にするな」「戦争の準備ではなく平和の準備を」などと宣伝し、防衛力強化に絶対反対する共産党の主張は、力を信奉する専制主義国家の中国や北朝鮮、ロシアを喜ばせるだけである。