池袋西武、経営側と労組の歴史的バトルの行方

そごう西武売却を巡る大バトルは西武池袋店が台風の目となり、労組はスト権を確立したのち、いよいよその宝刀を31日に抜くと予告しました。これは所有者であるセブンアイホールディングスが9月1日にも売却完了を目指しているからです。購入者はフォートレスですが実質的にはその後ろに控えるヨドバシカメラが西武百貨店を取得するスキームになっています。

西武池袋本店SNSより

つまり、売却完了時点でそごう西武の労組の交渉相手はフォートレス/ヨドバシになり、セブンは多額の売却資金を得て逃げ切り態勢になります。(ただ、セブンは労使問題からそう簡単に逃げられないよう契約上、条項が入っているとは思います。)

労組の心配な点は自分たちの仕事がどうなるのか、会社の運営方針がどうなのか不明な点であり、業務体系が大きく変化することが予想される中で抵抗を示していると察しています。現状囁かれているのは、売り場面積の半分がヨドバシになりそうだ、とのことですが、まさか家電とその関連商品だけでいくら半分とはいえ、それほどのスペースは必要ないと思うので最終的には各種専門店に販売スペースを小口リースするものと思われます。その場合、従業員の処遇はますます不明瞭になります。

さて、本件、池袋という街を少なくとも50年に渡り、知っている者としてこの最終決戦を前に個人的意見を述べたいと思います。

結論から先に言えば労組もヨドバシも勝てない、これが答えになると思います。

まず、労組が何を求めているのかもっと明白にすべきで、記者会見までするなら国民を巻き込むぐらいのインパクトあるプレゼンテーションが出来ればよかったのですが、結局、組合という枠組みの中の小さい話で終わっています。あれだけでは「客を敵に回す」ストライキを地で行くようなものです。もっと賢く「客を味方につける」ストライキの打ち方はあるのではないでしょうか?

その一つの発想は池袋西武の購買層は誰なのか、であります。基本的には中高年層なのです。ヨドバシになるとぐっと若くなる、その違いを鮮明に出すことは重要でした。百貨店と共に育った世代を呼び込むのです。池袋西武は新しい生活スタイルを求めていた層にとって生活文化の発信地でありました。それを決定づけたのが1982年の糸井重里氏のキャッチコピー「おいしい生活」で、当時20代の人たちがこぞって西武に惹かれたのです。その人たちも今や60代。その西武は子供を連れて行くところになり、世代を超えた生活文化を生み出してきたのです。ここは組合側が訴える点でしょう。

ではヨドバシ。なぜ、私が勝てないと思うのでしょうか?理由は2つあります。1つは再三指摘されているようにヤマダ電機とビックカメラの牙城もあるのですが、それ以上にガジェット系の顧客層は見るけど買わない人も多く、ハードからソフトの時代に代わった中でなぜ、そこまでして店を出したいのかわからないのです。

ちなみにヤマダ電機はもともとビックカメラ総本店のほぼ隣に店舗を構えていたのですが、池袋三越が閉店になった際にその器を全部ヤマダ電機が占拠しました。正直、でかすぎで商品を選びきれないというのが正解です。その上、もともとあった方のヤマダの池袋店はスペースの使い方が定まらず、今でもスカスカのつまらない建物となり果てています。つまり今回のヨドバシ進出劇は池袋にとって2度目のデパートから家電への業態変更なのです。

もう1つは入居する西武池袋はあまりにも古い構築物という点です。

西武池袋の建築は1952年に第1期が完成して以降、増築を繰り返し、56年頃までに8期にわたる工事で南北365メートルの「池袋の万里の長城」がほぼ完成するわけです。建物の構造を考えてもとてもじゃないけれどそれをそのまま使って新しいビジネスをしたくなるポテンシャルにはならないのです。天井も低いし、とてもじゃないですが、エレガントではありません。敢えてもう一言述べると、池袋駅の線路上は広大な空間が未利用のままです。JRが線路上開発を行えばまるで違う絵図になるでしょう。

では西口の東武百貨店はどうかといえばこちらも高齢者が多い百貨店ですが、最近はユニクロのほか、ノジマ電機やダイソーが入居し、自社売りよりも不動産リースに頼るところが大きくなっています。1Fはデザイナーズブランド店が占めるコーナーもありますが、どちらかといえば昔ながらのデパート風情が残り、ごちゃごちゃしていて安っぽいイメージが残ります。立教大生は逆立ちしても入らない店でしょう。

それでも池袋は渋谷や東京駅の高島屋とは違う文化があるのです。新宿とも違います。特に豊島区が長年作り上げたのが文化を観る、感じる、演じる、参加する街づくりです。石田衣良の「池袋ウェストゲートパーク」の舞台であるには西口公園には巨大な東京芸術劇場があり、区役所跡地のハレザ、更には南池袋公園はターミナルビルそばの憩いの公園としてユニークな立ち位置となっています。また、いうまでもなくサンシャイン通りとアニメイトを中心とした若者文化はアキバを凌駕する勢いです。9月から10月にかけて開催される神輿と東京よさこいで有名な「ふくろ祭り」は駅前を完全シャットアウトで行われます。

そういう濃い色の池袋に於いて生活文化としてはネットでも普通に手に入る商品が欲しいのではなく、その街でしか味わえないものが欲しいのです。もちろん、民間企業の事業売買なので介入できる範囲は知れています。この売買はいずれ最終決済されセブンは売却を完了するはずです。

セブンは評判を落としたと思います。セブンイレブンはともかく、セブンの経営陣の能力は結局コンビニ集団以外の何物でもなかったという言われかねないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。