先に表題の解説をしておくと、「目くそ」は中国、「鼻くそ」は韓国のことで、「耳くそ」は、これを他人事(ひとごと)とは言えないと思う筆者(と日本国民)を自嘲の意味で使った。で、「買い溜め」の対象物はなんと「塩」だ。
韓国で一番読者の多い保守紙「朝鮮日報」は去る6月16日、「『福島汚染水怪談』が生んだ塩の買いだめ…韓国で塩高騰」との見出し記事を報じた。副題には「『天日塩デマ』により韓国各地で買いだめ急増」「政府『安全に関して毎日事情説明する』」とある。
中身には「福島原発汚染水の海洋放出に対する不正確な情報があちこちに拡散され」た結果、スーパーなどでは「韓国産天日塩が売り切れ」、ネット・ショッピングでも「塩の買いだめ現象が相次いでいる」とある。海水を加熱処理せず太陽光だけで乾燥させた塩のことと天日塩の解説付きだ。
記事は「問題は『怪談』が広がり続けて一般の消費者が影響を受けることにある」、「怪談」に真っ先に反応し、買い溜めに走ったのは仲卸業者だった」と続く。結果、卸売サイトの天日塩は5月後半の4倍(8万ウォン/20kg)に高騰、協同組合関係者はこれでも「売り切れて、品物が全くない状況だ」と語る。
他方、「天日塩を作る過程で水は空気中に全て蒸発するため、(化学的に水と同じ)トリチウムの影響を受けることはない」として、世間で広がっている「天日塩の恐怖」はほぼデマに近いとする学者らの説明も載せるが、それでも買い溜めが収まらない理由をいくつか書いている。
一つは「ある種の今後の需要を見込んだ価格上昇現象」(塩メーカー糖関係者)という見方。塩は長期保存が利くという訳だ。他には、多雨による天日塩の生産減(ここ10年の平均の7割とある)や、風力発電によりここ数年塩田の面積が減り続けていること、などもあるそうだ。
その「朝鮮日報」が8月26日、「中国政府、自国民の塩買い占めに“韓国人のマネをするな”」との見出し記事を載せた。
日本からの水産物輸入を全面禁止した建前、中国国営メディアが「汚染水の危険性を毎日のように報じている」ことから、「汚染水への恐怖」が広がり、各地で塩の買い占めが起こっていて、政府と国営メディアが「韓国のまねをするな」「我々は韓国人よりも理性的だ」などと呼びかけ、事態の沈静化に乗り出しているそうだ。
24日には山東省威海市内の市場に塩を求めて数百人の市民が集まり、1時間で4トン以上売れたという。遼寧省大連のコンビニでは店主が数百箱の塩を積み上げ、通常の2倍の価格で売っているし、中国の主だった食品ネット通販サイトでも塩が全て売り切れているそうだ。
放出翌日の8月25日、人民日報系列のタブロイド紙「環球時報」は「中国の最高市場規制当局、日本の核汚染下水投棄を受けて水産物の監督を強化」との見出し記事でこう書いている。
中国税関総局(GAC)は木曜日、次のことを決定したと発表した。福島からの核汚染水の放出による放射能汚染のリスクを包括的に防止し、食品の安全性を確保し、中国の消費者の健康を保護し、輸入食品の安全性を確保することを目的とした日本産の水産物の全面停止。
一方、SAMR(国家市場監督管理総局)はまた、価格監視の強化と不法な価格つり上げ行為に対する法執行との連携メカニズムを確立することにより、全国的な塩価格の監視を強化することも求めた。中国の電子商取引プラットフォームでは、一部の輸入品や海塩を除き、多くの塩製品が売り切れ表示になったため、中国の消費者は木曜日、塩を急いで買い占めた。
「環球時報」は放出前日の23日にも、「福島の水(Fukushima water)投棄がもたらす経済リスクを最小限に抑えるには協力が必要」との記事で次のように書いた。これに前述の「朝鮮日報」が目に留めたのだろう。
日本による汚染廃水の投棄計画に先立ち、メディア報道によると、韓国の買い物客の一部が塩や海産物をまとめ買いしており、小売業者は供給不足を懸念して商品を買いだめしているという。韓国当局は核汚染水の投棄に対する国民の不安を軽減するために積極的に取り組んできたが、ほとんど効果はなかった。否定できないのは、日本の無責任な行動が広範囲に悪影響を及ぼし、アジアに問題や経済的混乱さえも引き起こすだろうということだ。
まさに「目くそ鼻くそを笑う」の態だが、それは国民の行動レベルの話。国家レベルでは、科学的データやIAEAの判断をベースにして冷静に対応した韓国尹政権と、福島とその近県だけでなく、行きがかり上、日本からの全水産物を即日禁輸した中国の対応はまったく対照的だ。
早速、韓国はデータの分析結果を28日に公表、放流以降の朝鮮半島近隣3海域のセシウム・トリチウム測定値がWHOの飲料水基準より低く安全だと強調した。朴国務調整室第1次長も会見で、「東京電力のデータから27日までに放流された汚染水総量が1,534立米、トリチウム量は約2,460億ベクレルと確認された」と説明した(28日の「中央日報」)。
つまり、韓国の対応なら政府が国民を「安全だから心配するな」と宥められる。が、中国は国家の上位にある共産党自体が先頭を切って反対している手前、「安全だから」と国民を説得できない。塩は海水から作るが、それを安全だといった途端、ではなぜ魚は安全じゃないの、と反論されるだろう。
海は繋がっている。日本で漁った魚は危ないが、東シナ海で漁った魚は安全だとはいえまい。確かに福島沖の黒潮は東シナ海に戻らないが、ベーリング海峡近くで根こそぎ漁るサンマは黒潮に乗ってそこに来た。これから本格化するサンマ、今年は沢山食べられるかも知れない。
中国は「海は日本の下水ではない」ともいった。余談だが、中国にもあるかどうかは知らないが、台湾の小吃(シャオツウ:ちょっとした一皿料理)に「下水」というのがある。何のことはない「豚モツのスープ」だが、それが滅法旨い。
ということで韓国も中国も塩の買い溜めに余念がないようだが、その国民性から推して、安全性への懸念というより、長期保存が利くことから値上がりするのを待っている、との説が有力ではあるまいか。そういう輩なら日本にもいる。これで「くそ」の話の落ちが付いた。