1949年10月1日に成立した中華人民共和国(以下、中国)を、西側諸国で真っ先(50年1月)に承認したのは英国だった(50年1月)。その英国下院外交委員会は30日、議員への制裁や反体制派への嫌がらせなどの中国による「国境を越えた弾圧」に厳しい対応を主張する報告書の中で、「台湾は中華民国という名の下にすでに独立した国である」と書いた(30日の「Politico」)。
報告書は「台湾は、永住人口、定められた領土、政府、他国と関係を結ぶ能力など、国家としての資格をすべて備えているが、国際的な認知度が欠けているだけだ」と、33年の「モンテビデオ条約」に謳われている国家の条件を、すでに台湾が具備していることを強調している。
与党保守党のアリシア・カーンズ外交委員長は、こうした議会初の内容の報告書について、「中国の立場は認めるが(外交委員会は)受け入れられない」、「外務大臣が断固として声を大にして台湾を支持し、台湾の自決権支持を明確にすることが不可欠だ」と述べる。「中国の立場」とは「中国が『台湾は中国の領土の不可分の一部であると表明した』立場」を指す。
報告書はまた、政府が台湾支援に十分な大胆さを欠いていると批判し、世界最先端の半導体の90%を供給する台湾に対する中国政府の軍事行動と経済封鎖を阻止するため、当局者らに対し同盟国との制裁の準備を開始するよう求めている。
同委員会は「英国が(中国共産党を)怒らせることに過度に警戒しなければ、台湾との緊密な関係を追求できる可能性がある」とし、「英国は台湾当局者と誰が交流できるかについて、自主規制を緩和すべきだ。米国と日本は、最高レベルであっても意思疎通が可能であることを示してきた」と述べた。
カーンズ委員長も昨年11月末に訪台した。ロイターはそれを「英政府はEU離脱後、インド太平洋地域を経済・外交両面で重視する方針を打ち出しており、外交委員会もこの問題を検討している」と報じ、同委員長が、訪台は「外交委員会の優先課題の1つ」とし、中国を念頭に「世界の安全保障や繁栄を脅かす様々な問題があり、それが英国や台湾などの民主主義勢力の連携を大事な要素にしている」と述べたと書いた。
その米国は「台湾旅行法」に基づき、昨年8月にはペロシ下院議長(当時)が台湾議会で演説し、今年2月の国防総省の中国担当チェイス国防次官補代理の訪台では、英「ファイナンシャルタイムズ」が「米国防総省高官が台湾訪問 バイデン政権下で初」との見出しで、「中国が台湾への軍事的な圧力を強める中、台湾側と安全保障上の協力について協議すると見られる」と報じた。
日本でも昨年12月には萩生田政調会長と世耕参院幹事長という安倍派の後継者候補が競うように台湾を訪れ、その安倍元総理の一周忌に当るこの7月には、昭恵夫人に同行する形で保守派の自民党女性議員が訪台した。8月には維新の馬場代表、そして白眉は「シン・喧嘩太郎」麻生副総裁の訪台だ。
英国ではトラス前首相もこの5月に訪台した。今は保守党下院議員のトラスはカーンズ委員長の同僚。台湾外交部は「トラス氏は英外相時代などに何度も台湾海峡の平和と安定の重要性を訴えてきた長年の友人だ」と、96年のサッチャー以来の元首相訪台を歓迎した。その他、EU関係者やドイツやリトアニア、チェコなどの要人も引きも切らずに台湾を訪れている。
この英外交委員会報告書の「台湾はすでに独立」との主張とは手段こそ異なるものの、これに呼応するかのように米国政府も30日、通常は主権国家向けに用いられる対外軍事援助承認制度(Foreign Military Financing:FMF)を台湾に適用し、最大8000万ドルを支援すると議会に伝えた。
筆者は、香港が大騒動になり始めた19年6月、「日本は香港市民や台湾の側に立つ意思を表明すべし」と題した拙稿で、72年の「日中共同声明」や84年の「英中共同宣言」、そして先述の「モンテビデオ条約」の文言に触れ、香港と台湾に「国家として欠けるものはない」として、次のように書いた。
しかも国家の承認は、承認する側の一方的な意思表示であり、承認される側の同意は必要ないとされる。我が国が承認していない北朝鮮を164ヵ国が承認し、台湾と国交のある国が蔡英文政権誕生以来5カ国も減って19ヵ国しかなくなったことによっても、そのことが知れる。
一足飛びに国家承認せよとはいわない。しかし、自由と民主主義と人権尊重を標榜する日本なら、同盟する米国と歩調を合わせて、香港や台湾の側に立つ意思を議会で表明するなり、国内法を整備するなりくらいはするべきではないか。
爾来4年3ヵ月、香港は中国の手に落ち、台湾と国交を持つ国は13カ国に減った。が、上述した西側各国の応援もあって台湾も蔡総統もめげることがない。が、ここは各国が英国下院の勇気を見習ってもう一歩踏み込んで欲しい。日本の議会も同様の報告書を纏めるべく、自民党に主導してもらいたい。