最低時給1500円になった日本で起きること

黒坂岳央です。

インフレを上回る賃上げ実現のため、岸田総理は「2030年半ばまでに最低時給1500円へ引き上げる」と目標を示した。2023年は全国平均で時給1002円となり、7年から10年で500円アップを目指すことになる。

ネットでは賛否分かれ「時給が増えるのはありがたい」「諸外国に比べて低かったので当然」といった声がある一方で「あまりに急すぎて混乱を招く」「企業の収益力の高まりに伴わない強制的な値上げは危険だ」などと懸念の声も多く見られた。

最低時給1500円に引き上げられると何が起きるのか?

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最低時給を引き上げた韓国はどうなった?

この問題を考える上で見るべきモデルがある。そう、お隣韓国である。

韓国は2018年に16.4%、19年に10.9%と急激に引き上げた。2年連続の最低時給の引き上げにより、19年1月の失業率は4.4%、18年の3.8%へと上昇した。これにより多くの識者から「急速な最低時給引き上げの失策」と評価を受けることになった。

だが、その後19年度の失業率は前年18年と同じ3.8%に落ち着いた。結局、時期的要因だったのでは?と見る声も見られ「必ずしも失策とはいえなかったのでは?」と専門家の間でも大きく意見が割れている。

韓国では2021年頃から「セルフレジ、無人店舗が急速に増えた」との声が見られる。あくまでコロナ禍での感染拡大防止を目的であり、最低時給引き上げの影響度がどれほどあったかは不明である。しかし、長期的に見て最低時給が1500円になった日本の未来を映し出している、そんな見方ができるかもしれない。

時給1500円になった日本で起きること

仮に最低時給が1500円になると、日本で何が起きるだろうか?

まずは確実に販売価格の上昇が起きる。特に外食産業における値上げはかなり著しいインパクトになると言わざるを得ない。そうしなければ経営する側はまったく採算が取れないからだ。ラーメンは1杯2000円超が普通になってしまうだろう。

現状と値段があまり変わらない事業者が存続するとすれば、家族経営や一人社長、フリーランスなど時給を支払う対象を持たないものに限られるだろう。こっちは最低時給引き上げのインパクトがないので、販売値段は据え置けることになるように思える。だが、最低時給が高まると半ば強制的に物価高が促進される。長期的に見れば結局、周囲の値上げに耐えられずに長期的には価格が上昇していく可能性はある。

そして時給1500円以上の労働力を提供できない人は失業するだろう。シンプルに雇用するメリットがないからだ。そうなれば、収益力の低い労働をこれまでのアルバイト契約ではなく、個人事業主契約で請け負うことになるかもしれない。こちらは最低時給などはないのだから、金額はいくらでも設定できる。そういう棲み分けが起きると思っている。

また、無人店舗が急速に拡大すると予想する。時給が50%アップするということは、これまで3000円あれば3人雇えていたアルバイトが2人しか雇えないことになる。時給が増加しても、労働力がいきなり高まることはない。そうなれば自然に人員削減が起きるだろうし、必然的に一人あたりの業務負担が大きくなり、店舗によってはオペレーションが回らなくなるところも出てくる。無人店舗システムのBreak Evenを迎えれば、無人店舗を導入するインセンティブは高まるだろう。

筆者が先日、東京・代々木にあるコンビニに行って驚いた。ほぼ完全無人店舗であり、自分で商品を取ってセルフ決済をする。おそらく店主はバックヤードで監視カメラで見ているのだろう。今後はこういう店舗の発展型が増えていくということだ。

無人店舗は盗難問題が悩ましいが、事前に会員登録して入場する仕組みが浸透すればこの問題は解決に向かう。窃盗がバレれてしまえばもう二度と同じ店舗にはいけなくなるし、会員登録情報から身バレしてしまうからだ。そうなれば少額の窃盗が割に合わなくなるので、リスクを抑えられる。「それでも盗むものはゼロにはできないのでは?」という声があるかもしれないが、それは有人店舗でも同じ話である。

最後は年金生活者の生活が苦しくなることは確定的だろう。最低時給が上昇すれば物価高になるので、年金も連動して増えなければ生活コストは上がる。年金を増やせる財源確保は難しいので、「年金2000万円問題」は「年金3000万円問題」、いや賃上げとは関係のないインフレも手伝って4000万円問題へとシフトするだろう。

最低時給の引き上げは自然発生的に起きるのが最も好ましい。企業の収益力が上昇し、好景気で消費意欲が高まって緩やかにインフレすれば、人材確保で時給も高くなっていく。だが、政府主導で半ば強制的に上昇することは全体的に見て良い結果を生む保証はない。

1つ確実なのは、インフレ負けして購買力が低下したり、仕事を失ってしまうことがないよう常にスキルを磨き続けて自分自身という資本収益力を高めることだろう。

 

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