洋上風力の入札ルールはなぜ変更されたのか

池田 信夫

秋本真利議員の入札汚職は、贈収賄事件としては単純明快だ。国会議員が収賄で逮捕されるのは珍しく、鈴木宗男以来、21年ぶりだという。ただこの事件でわからないのは、第2ラウンドの入札ルール変更で、日本風力開発が有利になったのかという点である。

第2ラウンドで入札ルールはどう変わったのか

2021年12月に結果が発表された第1ラウンドの入札では、3海域をすべて三菱商事グループが落札した。これに驚いた再エネ業者が、政界工作で入札ルールを変更させた。入札の評価は240点満点で、価格点が120点、事業評価点が120点である。変更のポイントは次の3点。

  1. ひとつのグループが落札できる発電容量の上限を100万kWに制限する
  2. 事業実現性の評価において事業計画の迅速性の比重を高める
  3. FIT(固定価格買い取り)からFIP(プレミアム買い取り)に変更する

このうち1と2は、三菱商事グループの独占を排除する意図が明らかだが、わかりにくいのは3である。第1ラウンドはFITだったので、たとえば三菱商事グループが基準価格12円/kWhで落札したら、電力会社は今後20年つねに12円で買い取る。

それに対してFIPでは、図1のように再エネ業者は市場価格で売ることができるが、それが入札した基準価格①より低い場合は、市場価格とのプレミアムを電力会社が払う。それに対して、市場価格が基準価格③より高い場合は、プレミアムを払わない。

図1

A社が入札で最低基準価格を出し、B社がそれより高い基準価格を出したとき、B社の価格点は次の式で計算する。

(A社の基準価格÷B社の基準価格)×120点(*)

ここでA社が10円/kWh、B社が20円を出したとすると、B社の点数は

(10÷20)×120=60点

ところがA社が最低基準価格1円を出したとすると120点満点をとれるが、B社は(*)より6点になり、A社は確実に入札に勝てる。こういう事例は欧州でも起こったため、ゼロプレミアム価格を設けた。これはその価格以下の基準価格を出した場合は、つねに120点満点とするものだ。

全員が3円で入札して価格競争がなくなる

今回の第2ラウンド入札では、このゼロプレミアム価格を3円/kWhと設定した。この場合、A社は基準価格1円を出しても3円を出しても同じなので3円で入札し、120点満点をとるだろう。

B社がたとえば6円を出すと、(*)式より価格点は60点となって大きな差がつくので、B社も3円で入札するだろう。結果的に全グループが3円で入札する。第2ラウンドの入札結果はまだ発表されていないが、そうなることはほぼ確実である。

そうすると価格点は全グループが120点満点になるので、まったく差がつかない。あと120点の事業評価点のウェイトは、次のように変更された。


第1回入札から第2回への事業評価点の変更(経産省資料)

ここでは事業計画の迅速性のウェイトが大きくなり、20点になった。これは地元に早くから根回ししている日風開やレノバを有利にするためだが、こんなものはいくらでも嘘をつける。たとえば「2025年運転開始」と申告して、25年になったら「資材不足なので来年に延期する」などといえばいいのだ。

要するに第2ラウンドの入札ルール変更は、価格競争をなくして三菱商事グループを排除することが目的であり、それは達成された。三菱商事は秋田沖の第2ラウンドの環境アセスメントを中止して、事実上撤退した。

賄賂で入札ルールを変更してはならない

しかしこのルール変更は、日風開にとっては自殺行為である。基準価格3円で入札すると、市場価格がそれ以下のときはプレミアムが受け取れるが、そんな価格は世界のどこでもついたことがない。日本の洋上風力では15円ぐらいが相場である。

この場合、FIPでは3円で売る必要はなく、市場価格で売ってもよい。太陽光でもそういう業者が増えているが、この相場は10円程度である。だから市場では、洋上風力も10円で売らないと競争できず、赤字操業になるおそれが強い。

こんな赤字入札をするのは、将来30年にわたって海域の独占権が与えられるからだ。つまり今回の入札ルール変更は、三菱商事グループを排除して価格競争をなくし、政治家と密着した日風開やレノバなどの業者の独占を確保することが目的なのだ。

全社が3円で入札すれば国民負担はなくなるが、資材が値上がりし、外資系の風力発電メーカーも撤退する中で、黒字が出るかどうかはわからない。価格競争力のなくなった洋上風力は(三菱商事グループ以外は)全滅するおそれが強い。日本風力開発は、第2ラウンドには応札しなかった。

何よりすでに始まった入札のルールを賄賂で変更することは、法治国家として絶対にあってはならない。西村経産相は「有識者会議で決まってパブリックコメントも募集した」というが、昨年3月22日の合同会議の前の3月18日に萩生田経産相が突然、入札ルールの変更を決めており、その経緯は不明である。

現在の入札は白紙撤回し、あらためて昨年3月に中止した第2ラウンドの入札を(第1ラウンドと同じルールで)再開すべきだ。入札ルールを見直すのは、第2ラウンドが終わってから考えればいい。行政の決定を事後承認するだけの合同会議は解散し、あらためて中立の立場の審議機関をつくるべきだ。