前回は女性のパートタイム雇用率について国際比較してみました。
日本の女性労働者は、就業率が上昇していますが、パートタイム労働ばかりが増えて、近年では先進国でもかなり高い水準に達しているようです。
今回は、労働者の解雇のしにくさについてご紹介します。
OECDでは各国で共通した雇用保護指標(Employment Protection Legislation indicators)を定めているようです。
最新のV4による評価が2013年から2019年まで行われたようです。
今回は、この雇用保護指標について、その構造と評価結果をご紹介します。
今回参考としたのは、OECDのEmployment Outlook 2020です。(参考URL: Recent trends in employment protection legislation)
この内容は、2013年の改定時に日本の労働政策研究・研修機構でも紹介されていますので、日本語表記などはこのサイトの表記を一部利用いたします。(参考URL: 経済協力開発機構の雇用保護指標2013について:OECD)
表1 一般労働者の解雇に関する雇用保護指標
解雇規制区分 | 解雇規制詳細 |
---|---|
手続きの要件 (Procedure Requirements) |
解雇通知の手続き (Notification procedure) 解雇通知までに要する期間 (Time delay before notice can be given) |
予告期間・解雇手当 (Notice and severance pay) |
解雇予告期間の長さ (Length of notice period) 解雇手当金の額 (Amount of severance pay) |
不当解雇規制の枠組み (Regulatory framework for unfair dismissals) |
不当解雇の定義 (Definition of unfair dismissals) 試用期間の長さ(Length of trial period) 不当解雇の賠償額 (Compensation to the worker following unfair dismissals) 不当解雇の際の現職復帰の可能性 (Possibility of reinstatement following unfair dismissals) |
不当解雇規制の実施 (Enforcement of unfair dismissal regulation) |
出訴できる期間 (Maximum time to make a claim of unfair dismissals) 申立ての際の証明義務 (Burden of proof when the worker files a complaint for unfair dismissals) 外部機関による解雇の事前検証 (Ex-ante validation of the dismissal by an external authority) 解雇前の失業手当承認方法(Pre-termination resolution mechanism granting unemployment benefits) |
一般労働者(regular workers)については、これらの4つの指標がそれぞれ4分の1の重みに再計算された上で、合算されて評価されています。
まずは、個別解雇について総合した指標を見てみましょう。
図1が一般労働者の雇用保護指標 個別解雇の比較です。
数値が高いほど、企業側から見て労働者を解雇しにくい事を表します。
日本は2.1という数値で、OECDの平均値2.26を下回ります。
主要先進国では、イタリアが2.7、フランス、2.4、ドイツ2.2で日本よりも高い数値です。
一方で、イギリス1.7、カナダ1.6、アメリカ1.3と日本よりも低い主要先進国もあります。
この指標を見る限りでは、日本は先進国の中ではやや解雇しやすい国と言えそうですね。
2. 雇用保護の詳細
次に、個別の評価指標についてもデータを見てみましょう。
図2が、詳細指標の積み上げグラフによる比較です。
この総和を4で割ったものが、図1の指数という事になります。
日本は手続きの要件と予告期間・解雇手当の指数が低く、不当解雇規制の枠組み、不当解雇規制の実施の指数が中程度のようです。
それなりに不当解雇に対しての規制が機能している反面、比較的容易かつ短期で解雇が可能な状況と読み取れそうですね。
このような労働者の保護や、再分配、企業・政府の在り方、家計の資産状況などについては、欧米の中でもフランス、ドイツとアメリカ、カナダは傾向が大きく異なる点がありますね。
日本はその中間的な状況であることが多いようです。
3. 時系列で見る雇用保護
OECDでは雇用保護に関する厳しさに関する指標を改定しているようで、現在はV4というバージョンが最新のようです。
V4は2013年~2019年に渡って記録を取られたようです。
より以前のV1は1985年から記録されているようですので、その長期データを見てみましょう。
図3がV1の長期データです。
雇用保護の厳しさ(Strictness of employment protection)という指標名となっています。
一般労働者(regular contracts)の、個別・集団的解雇(individual and collective dismissals)についての、雇用保護指標です。
数値が高い方が雇用保護が厳しく、企業が容易に労働者を解雇できない環境にあると言えます。
日本は2006年→2007年に一段緩くなり、イギリスと同程度です。
アメリカは極端に低い水準が続き、次いでカナダ、イギリス・日本と続きます。
これらの国々は、雇用規制がOECDの平均値よりも緩い国です。
一方、ドイツ、フランス、イタリア、韓国はOECD平均値より高い水準が続いているようです。
4. 雇用保護の特徴
今回は一般労働者の個別解雇について、雇用保護指標をご紹介しました。
日本は「解雇規制が厳しく雇用の流動性が低い」といった話をよく聞きます。実際に国際比較してみると、特別解雇規制が厳しいというわけでもなさそうですね。
雇用の流動性が高い方が良いかどうか私にはわかりませんが、それが低いというのはまた別の要因があるのかもしれません。
大企業では確かに解雇が難しいのかもしれませんが、中小企業では比較的容易に解雇が行われているのを当事者としても見てきました。
20名程度の会社で、数年の間に従業員がほぼ総入れ替えになった会社も珍しくはありません。
大企業でも解雇や早期退職者を募るといったことが増えてきましたね。
次回は個別解雇の雇用保護指標について、詳細をご紹介したいと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。