アリゾナ州務長官が過去2回の選挙で、州選挙法に定められた署名の照合を怠ったとして、同州ヤヴァパイ郡高等裁判所のジョン・ネッパー判事が「(法律の)明瞭な文言に反している」との判決を下した。8日の「National Pulse」が報じた。(以下、太字は筆者)
この訴訟は、州の選挙法を守るために設立された共和党系の団体「Restoring Integrity and Trust in Elections(RITE)」によって、ケイティ・ホッブス現知事を後継した民主党エイドリアン・フォンテス州務長官を相手取り3月に起された。
ネッパ―判事は判決文で、アリゾナ州の選挙では「立法府は、封筒の署名と有権者が登録した書類の署名との照合を行うことを意図している」とし、「投票用紙の署名と有権者登録書類を照合しなかった」ことで、「州務長官は法律違反を犯した」と述べた。
過去2回の選挙とは、民主党候補のケイティ・ホッブス州務長官(当時)が、共和党のカリ・レイク候補を17,138票差で破った22年の州知事選、そして共和党候補が民主党候補に280票差で勝った州司法長官選を指す。
「RITE」によれば、「より広範でより信頼性の低い比較署名の母集団を使用する(to use a broader and less reliable universe of comparison signatures)」との長官の指示により、「有権者の登録記録のどれとも一致しない署名が使用されているにも拘わらず、投票がカウントされた」という。
この判決は、筆者が、カリ・レイクに触れた昨年11月20日の「中間選挙の結果が示した『24年はトランプ』」と、ジョージア州フルトン郡の民主党地方検事による4度目のトランプ起訴に言及した8月17日の「4度目のトランプ起訴の元凶は『WaPo』の『spin』記事」という2本の拙稿に関係する。
前者ではこう書いた。
・・20年の大統領選挙では、州の投票全体の61%(約2百万票)を占める大票田のマリコパ郡で、開票結果に疑念を懐いた州上院の共和党議員団が、独自に資金を出して投票用紙のフォレンジック監査を行なうなど大きな話題を呼び、筆者も2年前の5月にその経緯を本欄に書いた。(略)
新人同士で戦われた今回の知事選、民主党候補はこのフォレンジック監査に反対の立場だった州務長官ケイティ・ホッブス、一方の共和党候補は長らくフェニックスのテレビ局に勤め、ニュース番組のアンカーもしていたカリ・レイクで、彼女はトランプの強い支持を受けていた。
結果は、ホッブス:50.3%(1,282,532票)、レイク:49.7%(1,265,394票)の17,138票差でコールされた。が、レイクは現地時間17日、「私は最高で最も優秀な法務チームを編成し、この1週間で行われた多くの過ちを正すためにあらゆる手段を模索している」とツイート、結果に異議を唱える構えだ。
その理由としてレイクは、例のマリコパ郡で投票機の故障が生じて、レイク側が投票時間の延長を求めたことや、ドロップボックス(投票箱)や郵便投票を信用できない有権者38万人余りが、郵便投票用紙に記入して投票日に持参したことなどを挙げている。
レイクに代わって「RITE」が訴訟に勝った訳だが、今後、「投票用紙の署名と有権者登録書類」との照合が行われたとして、17,138票の差がひっくり返るのか注目だ。熱烈なトランプ支持者のレイクは24年の副大統領候補の一人に擬されている一方、当人は上院議員を目指しているとも言われる(8月26日の「The Hill」)。
後者は、ジョージア州フルトン郡の民主党地方検事ファニ・ウィリスが、通常は反社会的組織の起訴などに用いる「威力脅迫および腐敗組織に関する連邦法(RICO法)」を使い、トランプはじめ弁護士のルディ・ジュリアーニやシドニー・パウエルなど19名を一括起訴した、前代未聞の一件だ。
筆者は、トランプがジョージア州務長官ラフェンスペルガーに架けた電話文字起こし全文を基に、トランプの要求のポイントは次のやり取りにあると書いた。
トランプ:フルトン郡に保存されている署名に遡ってその署名の真贋を確認すれば、少なくとも数十万件の偽造された人々の署名が見つかると私たちは考えています。そして私たちはそれが起こるだろうと確信しています。
トランプ:・・私たちに任せてもらえれば、署名検証を行うことができ、何十万もの署名が見つかるでしょう。そして、それを行う唯一の方法は、ご存知の通り過去に行くことです。がし、コブ郡(筆者注:問題となっているフルトン郡とは別の、数え直しをした郡)ではそれをしなかった。あるページを別のページと比較しただけです。署名検証を行う唯一の方法は、11月に署名したものから順に移動することです。最近。そして、2年前、4年前、6年前、あるいは1年前と比較してみて下さい。そして、様々な署名があることが判ります。しかし、彼らが投票用紙を捨てたフルトン郡では、署名さえされていない投票用紙や偽造投票用紙が多数あることが判ります。
ヒルベルト:そうです。そして、これは USPS のデータとあなた自身の国務長官のデータに基づいているだけです。従って、私達があなたに懇願し、お願いしたいのは、妥協と和解の手続きで私達と一緒に座り、登録された有権者IDと登録を実際に行うことです。24,149 が不正確であると納得して頂けるのならそれで結構です。しかし、私達はそれが明らかに 11,779 件を超えていると信じがちです。それ自体で結果を完全に変えるには十分です。ジャーマニーさん、それについてはどう思いますか?
トランプ:署名集計はいつ行うつもりですか、フルトン郡での署名検証はいつ行うつもりですか、あなたは行うつもりだと言っていたのに、今突然それを行わないのですか、いつそんなことやってるの?
ラフェンスペルガーは、3度再集計し1回は手作業で行ったが、ほぼ同じ結果だったなどと述べるのみだった。改めて言うが、そもそもトランプが指摘するように「署名さえされていない投票用紙や偽造投票用紙」を大量に含む投票用紙を何遍数えたところで結果が変わる道理もない。本質は署名の検証だ。
ちなみにフルトン郡の20年大統領選の得票はバイデン38万vsトランプ14万、16年はヒラリー30万vsトランプ12万だった。トランプも2万票増やしたが、バイデンは8万票増やした。ジョージア州法でも署名照合が明文化されているか不明だが、州務長官は理に適う大統領の要求を無視した。
「RITE」は、ブッシュ(子)政権の幹部カール・ローブらによって22年7月に設立され、指導部には共和党全国委員会の主要メンバーやトランプ政権の司法長官ビル・バーがいる。目下、このアリゾナの他にペンシルベニアとウィスコンシンのスイングステートでも、主に郵便投票をターゲットに係争中であり、今後さらに増えると見られている。
今般のアリゾナ州ヤヴァパイ郡の判決が、ペンシルベニアとウィスコンシンでの「RITE」による訴訟やカリ・レイクが負けた知事選、そしてジョージア州のRICO裁判とトランプのJ6議事堂暴動裁判、延いては24年の大統領選にどう影響するのか、大いに注目される。