行政の「人的資本」①:国家公務員のプライドと仕事の魅力を再定義しよう

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人事院の勧告・報告にて「一般職給与の引き上げ」が提案されました。この背景にあるのが、若手の離職の増加や国家公務員の採用での苦戦の状況です。特に、人事院は魅力が薄れていることに対して危機感をもっており、中途採用、週休3日など様々な取り組みを検討しています。めちゃくちゃ頑張っていると言えます。

そして、岸田政権は骨太の方針

国家公務員については、デジタル環境の整備、業務の見直し、時間や場所にとらわれない働き方の充実等により働き方改革を一層推進するとともに、採用試験の受験者拡大や中途採用の活用、職員としての成長に資する業務経験やスキルアップ機会の付与、民間知見の習得など人材の確保・育成に戦略的に取り組む。

とまで明確にされています。方向性としては正しいと言えます。

しかし、大事なことが3点抜けています。第一に、公務員のプライドをどうするか。第二に、仕事の魅力・やりがいをどう設計するか。第三に、政治との関係です。これらについては明らかにされていませんが、大きな課題といっていいでしょう。

【課題】仕事のプライド

「国家を支える」、昔の国家公務員はそういったプライド・矜持で仕事をしてきました。それは高度成長を支えて、戦後の日本国の復興を支えてき他とも言われています。時には大きな批判を受けましたが、国民からの広い信頼もあったかと思います。官僚は東大同期と比較して給料が低くても、国家を支える、かじ取りするプライドが支えていたはずです。

しかし過剰な官僚バッシングによって20世紀後半、国家公務員のプライドはズタズタになってしまいました。今もその影響はあると思っています。

失われた30年を踏まえて日本経済を再生させる、SDGs目標の達成のため100年の視点で考える、EBPMを推進して単なる利益団体(特定の業界、企業、労組、団体)のためよりも未来志向で政策提案をする、そのためにプライドを再生しないといけないでしょう。

国家を支える、日本社会を支えている実感をどう持たせるか、は入念に設計する必要があります。

【課題】仕事のやりがい

内閣人事局のアンケート分析においても、離職意向の要因として社会貢献の実感や自分の強みの発揮が要素として重要だとされています。仕事のやりがいにつながる社会貢献の実感については深刻な問題でしょう。

私からすると色々問題はありますが、こんなに安全安心な社会であること、きっちり社会を考え、頑張って支えているのに、国家公務員の仕事が国民に理解されていないなあと思うことは多いです。難易度が高い調整、各方面への配慮、事実に基づく企画・・・・などなどその仕事ぶりは感嘆することも多いです。国民に理解されなかったらそれは自分たちでも実感できないだろうなあということです。

これについては政策・施策・事務事業が「何のために」やっているのか、その目的と成果が可視化すること、政策評価制度の改善や社会貢献度のつながりの可視化は必要でしょう。

出典:内閣人事局「令和3年度働き方改革職員アンケート結果について(概要)」P6

また、行政経営の経験から感じるのは、法律に載って運用されているのですが法律と現実の乖離があったりすること、「これ必要なの?」と疑問を持っても現場で行っている仕事を前例踏襲してやらざるを得ないこと、デジタル業務改善の提案や実行姿勢が弱いことです。

また、特に幹部職員は専門性を身に着けたと思ったら人事異動にあって専門性がつかないことも深刻でしょう。最近はコンサル会社にこれもあれも委託してしまい、調査能力が生かされていません。特に、結局、政治家や各州方面との調整能力や資料作成能力くらいしか向上しないという結果になってしまいます。

新たな取り組みに挑戦する風土、政策分析や検証、専門職キャリアなど複数のキャリアデザインなどが必要なのは当然でしょう。

【課題】政治との関係

政治が政治主導のもと、官僚制に介入し始め、政官関係は大きく変貌しました。特に2014年5月に内閣人事局が設置され、政治のリーダーシップという中で、それが過剰に影響を与えた面は多くの識者からも指摘されています。

内閣人事局を通じた幹部人事の統制により、官僚制に官邸から過剰に介入したことの弊害は事実として存在し、官邸の意向に沿わない人物を遠ざける報復人事、抜擢された人物が省内から支持されていないというような深刻な人事の失敗も指摘されています。

政治のリーダーシップ強化で、「日本の方向性を長期的に考える」ということよりも「政治家の言うことを徹底的に聞く」ことが優先されてしまったのも事実。幹部職員が政治の影響を過剰に受けないよう、国家公務員を守る視点も大事になります。内閣人事局による各省幹部の人事権を徹底化したことへの検証も必要でしょう。

国家公務員の人的資本

強いリーダーシップを持ち出した政治、特に官邸からの要求に対して、面従腹背するような芸当も使えなくなってきました。

  • 公文書改ざん証拠隠滅を図るために決裁文書の書き換え、公文書廃棄
  • 官邸官僚の跋扈
  • 統計不正

などもこの10年で発覚しました。

もちろん、政権が選挙による国民の支持を背景に行政に圧力をかけること自体は当然のことです。しかし、問題はそれが法の下の裁量をこえたことなのです。これに対しては新しいモデルを考えないといけないでしょう。政権が変わっても何を言われようと、国家の基盤をしっかり固める点も国民が求めているはずです。

これから様々なテーマで行政経営における「人的資本」の役割を多面的な視点から考えていきたいと思います。

(次回につづく)