スイス教会の聖職者の「性犯罪報告」

ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待は国境の壁を越えて拡散している。アルプスの小国スイスで1950年以降、今日までに1002件の聖職者の性犯罪が起きている。チューリッヒ大学の2人の歴史学者が12日、調査した結果を公表した。もちろん、明らかになった範囲であり、「発覚した件数は氷山の一角に過ぎない」という。

未成年者への性的虐待が多発するスイスのカトリック教会(バチカンニュースから)

聖職者の性犯罪で最も多い被害者は未成年者(バチカンニュース独語版、2023年9月12日)

報告によると、性犯罪を行った聖職者は510人、被害者数は921人に上っている。加害者は少数の例外を除き男性で、被害者は54%が男性だった。また、被害者の74%は未成年者だ。報告によると、教会上層部は教区内の聖職者の性犯罪をつい最近まで隠蔽してきた。

歴史学者のモニカ・ドマン氏とマリエッタ・マイヤー氏は12日、「スイスのローマ・カトリック教会の環境における性的虐待の歴史について」というタイトルのパイロットプロジェクトに関する報告書を発表した。報告書は135頁に及び、教会内外に衝撃を投じている。

スイス代表紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングNZZ))は12日電子版で、「チューリッヒの2人の歴史学教授と研究チームは昨年、教会のアーカイブを調査し、1950年から現在までの加害者と被害者に関する情報を見つけた。彼らはまた、教会の刑事手続きからのファイルが保管され、通常は司教のみに公開されている、いわゆる秘密アーカイブへのアクセスも獲得した。この試験的プロジェクトだけでも、教会が以前に認めたよりもはるかに多い1002件の虐待事件を見つけた」と報じている。

歴史学者らの研究調査の準備作業は2019年に始まった。カトリック教会は、過去70年間の教会の歴史と虐待の歴史に関する歴史研究をチューリッヒ大学に依頼した。主な焦点は、個々の事件を明らかにすることだけではなく、教会内で大規模な虐待を可能にし、助長した組織的な原因を調査し、組織的な隠蔽につながった関連性を明らかにすることにあったという。

歴史学者は、「スイスのカトリック教会は、アイルランド、フランス、ドイツの教会と同様に非人道的な陰謀を行ってきたことが、公開されたパイロット研究によって証明された。司教たちは『聖なる』教会の評判を守るためにできる限りのことをした。性的虐待を犯した聖職者が処罰されないことが多いのは、司教たちが共犯者になっていたためだ」と指摘している。

バチカンニュースは12日、「136ページに及ぶこの研究は、スイスのカトリック教会における性的虐待を科学的に定義し、概説する初めての体系的な試みだ。今後のプロジェクトでは、追加のアーカイブ所蔵品を参照する必要があるだろう。それによって、性的虐待の頻度および時間的および地理的クラスターについて、より詳細な記述が可能となるだろう」と報じている。

司教会議議長のフェリックス・グミュール司教は、「スイスのローマ・カトリック教会における性的虐待に関するチューリッヒ大学の最終報告書は衝撃的だ。あまりにも多くの教会指導者が何十年も無責任な行動をとってきた」と率直に述べている。

バーゼル教区の責任者でもあるグミュール司教は、同教区でも過去、性的暴行疑惑事件の対応に誤りがあったことを認めている。同教区の助祭が1995年から98年にかけて未成年者への性的虐待を繰り返した。2019年に被害者がカトリック教会に虐待を通報した。スイス司教会議(SBK)の補償委員会は被害者と認定し、1万5000フラン(約1万5678ユーロ)の補償金を支払った。しかし、加害者には何の処罰もしなかったという例だ。ちなみに、バーゼル教区は信者数が100万人を超えるスイス最大の教区だ。

なお、同調査報告が公表される前、スイス教会では「6人の司教が性的虐待事件を隠蔽していた」という告発がなされ、大きな話題となったばかりだ。スイス司教会議は10日、「6人の司教が聖職者の性犯罪を隠ぺいしたという容疑を受けている」と認めている。

グミュール司教会議議長は、「同件については、ローマに報告済みだ。バチカンは6月23日、この問題に関する予備的な教会調査を命じ、ジョゼフ・ボヌマン司教を調査責任者に任命した。ボヌマン司教の予備調査は進行中であり、年末までに完了する予定だ」という。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。