概算要求を企業の目線で分析する(厚労省・厚生系)

前回に引き続き、今回も概算要求を企業の目線で分析していきます。今回は厚労省の厚生系の予算です。

なぜ、企業やビジネスパーソンが概算要求を把握しないといけないのかについては、前回の記事を見ていただければと思います。

それでは、見ていきましょう。

SakuraIkkyo/iStock

厚労省(厚生分野)の予算分析

新しい予算が作られる前には、様々な政策的動きがあります。官邸や省庁に新しい会議体が作られるのもその一つです。その会議体での議論のとりまとめ結果を踏まえた予算が新設されることはよくあります。また、新法が成立したり、法律の改正があった場合には、その法律に書き込まれた政策の趣旨を実現するために、予算を確保するケースもあります。そのいくつかのケースについて、どのような予算が確保されたのか、民間の方がどのようにその予算を活用すべくアクションをとればいいのか、まとめました。

医薬品流通施策予算は、調査が得意なコンサルティング会社向けか

医薬品の流通政策については、今年大きな動きがありました。「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会(総合対策検討会)」の報告書が6月12日に公表されています。このような大きな動きがあった政策分野については、予算が厚く配分されることが通常です。主に以下のような予算がついていますが、調査、実態把握予算が多く、再来年以降これらの調査事業などの結果を踏まえた新たな予算がありそうです。

-治験のコスト削減

総合対策検討会では、欧米で承認されている医薬品のうち日本で未承認の医薬品が多くある理由として、日本人データが治験で必要とされることが障壁となっていることが指摘されています。この課題に対応するため、医療機関と連携し、治験依頼者(企業)から医療機関への過剰な又は重複した要求等の負担の実態を調査すること、治験にかかる手続きの簡素化、治験の目的に応じた合理化のためのガイドラインを策定することなどにより進めることが決められています。概算要求額 27百万円の新設予算でPMDAが実施主体となります。調査費用は連携医療機関への支出が想定されています。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/01-02.pdf(p24)

-医薬品供給リスク調査・分析

総合対策検討会では、後発品を中心として、出荷停止のものが多く発生していることが指摘されています。これに対応するため、各製造販売事業者における自己点検の実施、リスク管理計画の作成のためのマニュアル作成、リスクシナリオに基づく行動計画の整備、有識者による協議会設置のための予算が、概算要求額 81百万円で新設されています。コンサルティング会社等が得意とする分野かと思われます。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/01-02.pdf(p36)

-後発医薬品の生産効率化促進のための調査

小規模で生産能力も限定的な企業が多い中、少量多品目生産が行われるといった後発品産業の構造的課題が存在していることも総合対策検討会では指摘されました。そこで、生産効率化に有効な品目統合による品目数の適正化や連続生産設備の導入など、後発品の政策効率化に有効な政策を検討するため調査事業が実施されます。概算要求額 54百万円で新設です。企業へ委託されます。こちらも主には調査事業なので、コンサルティング会社が得意とする事業とおもわれます。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/01-02.pdf(p37)

-医療機器安定確保のための調査

医薬品と同様に、医療機器についても供給不安のリスクは存在します。そのため、安定供給に課題のある製品の生産量、出荷量、供給不安要因の調査等の予算が新設されています。概算要求額 51百万円で、企業に委託されます。同じくこちらも調査事業の性質が濃い予算なので、コンサルティング会社が得意とする事業とおもわれます。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24syokan/dl/01-02.pdf(p37)

いかがだったでしょうか。企業の皆さんにとって、概算要求がビジネスチャンスにつながることがお分かりいただけたでしょうか。それでは、さらに詳しく見ていきましょう。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。