XBB対応ワクチンはコロナ変異株「エリス」「ピロラ」にも有効か?

Lubo Ivanko/iStock

9月20日から6ヶ月以上の乳幼児を含めて、初回接種を完了したすべての年齢層を対象にコロナワクチンの7回目接種が始まった。

流行株がBA.5からXBBに変異したことから、接種するワクチンは、これまでのオミクロン対応2価ワクチンから、XBB.1.5の遺伝情報をもとに作成したXBB対応ワクチンへ変更された。新聞報道によれば、愛知県岡崎市の集団接種会場へは、初日に340人が訪れ、10月15日までの予約枠は半数ほどが埋まっているようである。

図1に示すように、5月8日から6回目ワクチンの接種を開始したにもかかわらず、コロナの感染者数は激増している。XBBに対してはオミクロン対応2価ワクチンでは感染予防効果が得られないことは明らかである。

図1 6回目ワクチンの接種回数と新規感染者数

実際、モデルナオミクロン対応2価ワクチンで得られる中和抗体価は、武漢株に対しては、9,961倍、BA.4/BA.5変異株に対しては3,355倍あるのにXBB.1.5変異株に対しては298倍に過ぎない(図2)。政府が、流行株に対応したワクチンへの変更を意図したことは理解できる。

図2 モデルナオミクロン対応2価ワクチンによる各種変異株に対する中和抗体価

それでは、流行株に対応したワクチンを選択すれば、期待通りの効果は得られるだろうか。オミクロンやXBB対応コロナワクチンの承認は中和抗体価でもって判断されたが、ワクチンの効果は抗体価のみでなく細胞性免疫など複合的なものである。

図3は第8波における感染者数とワクチン接種回数を示す。第8波の主流株はBA.5であったが、この時期、BA.5の遺伝情報をもとに作成したオミクロン対応ワクチンを接種したにもかかわらず、感染は拡大した。流行株に対応したワクチンを選択すれば、感染がコントロールできるとも言い切れない。

図3 第8波における感染者数とワクチンの接種回数

最近発表された基礎研究によると、ワクチンを3回以上追加接種すると、オミクロン株に対する免疫能が特異的に抑制され、かえって、感染しやすくなるようである。

Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure

米国でも、日本に遅れて9月11日に、XBB対応ワクチンの使用が承認された。しかし、米国ではすでに、XBB.1.5の流行株に占める割合は3.1%にまで減少し、主流はEG.5(エリス)となっている。さらに、新たにBA.2 から派生したBA.2.86(ピロラ)も出現した。

日本でも、9月15日の発表では、エリスが流行株の40%を占め、ピロラも検出されている。XBB対応ワクチンも、既に型落ちワクチンになってしまった。感染症の専門家は、テレビのインタビューに答えて、エリスはXBBから派生した変異株なので、XBB対応ワクチンの効果が期待できるというが、どのようなデータに基づいた見解なのだろうか。

9月12日に開催された米国CDCのAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)で、ファイザーとモデルナからXBB対応ワクチンのエリス、ピオラに対する中和抗体価が発表された。ファイザーの発表はマウスによる動物実験のデータのみなので、ここではモデルナの発表を紹介する。モデルナからも、感染予防効果や重症化予防効果など、ヒトに対する有効性を検討した結果は報告されていない。

図2には、50gのモデルナXBB対応ワクチン接種29日後の各変異株に対する中和抗体価を示す。ワクチン接種後、XBB.1.5、XBB.1.16に対する中和抗体価は2,711倍、3,694倍に増加した。エリス、ピロラに対する中和抗体価もXBBと比較して劣るものの1,042倍、1,077倍に増加した。感染症の専門家が、エリスはXBBから派生した変異株なのでXBB対応ワクチンでも効果が期待できると主張するのはこのデータに基づいたものと思われる。

しかし、第8波においては、3,000倍以上の中和抗体価が得られたオミクロン対応ワクチンをもってしてもBA.5の感染拡大が見られたことを考えると、XBB対応ワクチンがエリスに効果があることを示すには、ヒトを対象にした臨床データの発表があるまで待つ必要があるであろう。

図4には、わが国におけるワクチン接種とコロナ流行との関係を示す。これまでは、非流行期に追加接種を開始すると、決まって2ヶ月後に流行のピークが見られ、それから2ヶ月ほどかけて収束に向かった。一方、昨年の夏以降、多くの国ではワクチンの追加接種は行われておらず、コロナの流行も見られていない。

図4 ワクチン接種の開始時期とコロナの流行

今回は、5月8日から6回目接種が始まったが、いまだにピークは見えてこない。これまでは、非流行期にワクチンの接種が開始されており、今回のようにコロナの流行期に追加接種が開始されるのは初めてで、今後どのような経過をたどるのか予想できない。

7回目ワクチン接種の判断は、個人に任されているが、ワクチンの有効性以上に副反応の情報が重要である。副反応についても、十分な情報が公開されているとは言い難い。メデイアはワクチンのメリットだけでなく、デメリットに関しても公正な情報を伝えるべきである。