日本にお住いの方は当たり前かもしれませんが、たまに来る私には新鮮なこともあります。
池袋のこぎれいな洋食レストランで席に座ったら自分のスマホでQRコードを読み取って注文してくれ、とあります。バイトの店員は水だけ持ってくるだけ。注文の細かい設定をこなし、確定ボタンを押してしばらくすると注文したものが運ばれます。支払いはテーブルのお会計の紙を店の出口のバーコードリーダーに読み込ませ、現金投入機に入れておしまい。
カナダでもこのような店に行ったことはあり、このような傾向は世界で強まるのだろうと思いますが、何か違うのです。無味乾燥、これが一番しっくりきます。
同じ池袋のある超人気洋食店。開店とともに行かないと待たされるその店の良さは活気です。厨房の声が聞こえ、元気のよい店員が忙しそうに店を動き回り、会計も客が支払うお金を用意してくるから素早く瞬時に終わります。大きな声で「ありがとうございました」と言われれば「おいしかったね」と大満足なのです。
昨夜、初めて来たある地方都市で夜、一人で寿司屋に入ったところ、店主が気さくな人でいろいろな話をしてくれました。「これ、おいしいですねぇ」といえば「それはね…」とうんちくや由来の話もしてくれます。すっかりいい気分になってちょっと飲み過ぎで散財したけれど「余は満足じゃ」で気持ちよく帰りました。
寿司屋のオヤジは営業マンなんです。カウンターの向こうでいろいろ囁くわけです。「今日のこれは最高にうまいよ」なんて言われると「いりません」とは言えなくなるのです。若い人には「うぜえ度」100%です。
会社がIT化を進める理由は2つ。1つは人材が圧倒的に不足していること、もう一つはコスト削減です。外食産業では店主や店員の「接待」を受けられる「高級店」と機械対応の「一般店」の完全二極化が今後、より明白に進むのだろうと思います。
例えば私はコンビニやスーパーなどでは店員は技術の進化に伴い店員がいなくなっても何ら支障はありません。ユニクロで買い物をするのに商品のことで店員をつかまえることはあっても会計は瞬時で精算できるあの完全自動化の仕組みは素晴らしいと思います。
日経には「『AI失業』米国で現実に 1~8月4000人、テックや通信」とあり、世界中、様々な分野でテクノロジーに雇用が淘汰されつつあります。アメリカではテック業界の人材削減は1-2年前から断続的に行われており、大手は大規模なリストラを継続的に行っています。若い人が職探しで一番多いテック系業界では先方がお断り状態なのです。飲食店、建設業、運輸業、教員、看護介護士のように人材不足の業種に対してIT企業のように雇用を減らすところもあり、その共通点は職を探す者の門戸がより狭くなっているということでしょう。いわゆるミスマッチです。
我々が若い頃はバイトで3Kは当たり前でした。私の初バイトは飛び込みの訪問セールスで2日目でノルマ達成できず、クビ。あとは警備員とかレストランでバイトをしましたが、それがごく普通だったと思います。ところが今は雇われる方の取捨選択が鮮明になっているし、雇う方も気を遣わねばならない法律やコンプライアンス、社会道徳の縛りが増え、「面倒くさい」時代になったのです。更に「雇用主は被雇用者の子守り役」になっているところもあり「もう、やりきれない」、これが実情でしょう。
アメリカで自動車大手3社のストライキが行われていますが、経営側は内心「早く全面ロボット化したいよな」と思っていることでしょう。これは経営者と従業員の温度差ですが、冒頭に示したケースのように経営者と顧客の温度差も否定できないのです。
労働を通じて社会を支えるという発想と社会バランスが欠如し、大きな問題になっているのが中国と韓国です。両国の若年層の失業率が高いのは若年層が高度な教育を受けた結果、汗をかく仕事をプライドが許さなくなっているのです。つまり仕事はある、だけどそんな仕事はしたくないのです。その上、学卒より院卒と更に高みに向かったら最後、仕事なんてありません。かつてはちやほやされた院卒は今じゃ、頭でっかちで使いずらいだけです。
どれだけAIが進もうが、職はあるので失業しないと言われます。かつての産業革命でもむしろ職は増えたのです。しかし、いま、直面している問題はその切り口ではなく、働く本質であり、「楽して稼げること」で「口先商売」に喜々としている社会構造の変化に私は大きな懸念を感じているのです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月24日の記事より転載させていただきました。