アジア系訪日客が日本のおもてなし接客に激怒したワケ

黒坂岳央です。

過去記事「国内旅行は今の内に行った方がいい」でも書いたが、世界から日本を訪れる訪日観光客が急増している。

筆者は先日、家族で沖縄へ行く用事があったのだが、そこで宿泊するホテルでは利用客の3分の1くらいが外国人だった。アジア圏からの利用客は外見だけでは判断できないことも多いため、実際にはもっと多いだろう。とにかく増えている。

滞在中、トラブルに見舞われた。アジア系の家族連れの利用客が大声でスタッフやシェフに英語で怒鳴りつけ、不満を爆発させるという光景を目の当たりにしたのだ。なぜ彼は怒っていたのか?

SunnyVMD/iStock

訪日観光客が激怒した理由

あらましを説明したい。

家族でレストランで夕食を取った。ワインリストを見るとボトルで30万円、40万円のものがずらりと並び、店では落ち着いた雰囲気が流れ、料理も素晴らしかった。筆者のすぐ近くの席に後からアジア系の家族連れがやってきた。夫婦と赤ちゃん連れでかなり若い夫婦である。

夫婦の会話は母国語で、スタッフとのやり取りは英語だった。夫だけでなく、妻も流暢な英語を話し、語学力はかなり堪能だ。最初の頃、何もトラブルなどはなかったように思えた。

雲行きが怪しくなったのはオーダーしたステーキが運ばれた時である。男性が大声でスタッフを呼びつけ、注文時の肉の説明と運ばれてきた肉の状態が違うと怒り始めたのだ。話しているうちに男性の感情はヒートアップしていき、too stupid!(バカすぎる)とかso awful!(ひどすぎる)と大声で怒鳴りつけていた。

こういう落ち着いた大人の雰囲気が流れる場としては、ふさわしくない英単語が踊り並ぶので、そこから自分の集中力はトラブルへと傾いていった。周囲の他の利用客もシーンと静寂になり、レストランはその男性が怒鳴る英語が響き渡る状態となった。スタッフもシェフも一列に並んで頭を下げるが事態は一向におさまらない。

男性は自分が何に対して怒っているのかを説明し始めた。ホテルもレストランも英語を介さないスタッフばかりでひどい。日本で素晴らしい観光ができると期待したのに残念だと。簡単な英語を理解できないやつはバカだ!といっていた。そして自分がステーキの状態にクレームをつけた時にシェフが料理の手を止め、こちらを凝視する様子に気分を害したといっていた。

時間が経って男性の怒りは少し鎮火して、I don’t mean to mock Japanese people. I’m sorry for everybody.と言い始めたので、今なら冷静に話ができるかもしれないと思い、近くにいた筆者は立ち上がって男性と会話をしてみた。

実際の写真。殴られるかもしれない緊迫感があった

自分は彼に次の趣旨のことを伝えた。

「日本旅行を期待して英語が通じないイライラは理解する。家族連れで楽しもうという気持ちが萎えてしまったことには共感する。だが、自分も今日は家族とゆっくり食事をとりたいと思いここに来た。どうか静かなディナータイムを過ごす協力をしてもらえないだろうか?日本では都市圏でなければ英語が通じないことも多いし、シェフがあなたを見ていたのは物珍しさではなく、心配していたからだと思う」と伝えたらSo sorry!と深く謝罪され、握手を差し出されたので応じた。

内心すごくホッとした。男性はそのまま帰っていき、レストランのスタッフからは感謝の言葉をもらい、特別にデザートメニューを無料で提供頂いた。

先方が差し出した握手(左下)に応じて雰囲気は一気に柔和に

決して家族の前でカッコつけようと思ったわけではない。自分は本来が小心者であり、海外ならこんな真似をしない。銃や刃物が飛び出してくる可能性もあるからだ。

だがせっかくの沖縄滞在中のよいグレードのレストランで子供が少し怯えている様子を見せていたのが気になったし、毎日英語を教えているので外国人や海外に対して恐怖心が植え付けられてはいけないと思って行動した。結果的にはうまくいき、ホテルのスタッフからは感謝され、家族も安堵したようだった。

万が一、トラブルになった時のためにこっそりGoProの録画モードをONにして男性の元へ向かったが、平和的に解決してよかったと思っている(もちろん、この動画を全世界にYouTubeで配信し、特定の国へのヘイトを煽る真似などするつもりはない)。

英語が通じないことのダメージ

自分はこのホテルやレストランはとても素晴らしいと感じた。随所におもてなしがなされ、スタッフの対応に不満を感じた瞬間はない。誰が滞在しても同じことを思うはずだ。しかし、英語が通じなければせっかくのおもてなしやサービスも伝わらない。それはとてももったいないことだ。

件のインバウンド客のように周囲が静寂に包まれ、怒鳴り声が響き渡るようなことはめったにないが、表に出さないだけで英語が通じない不満を感じる外国人は少なくないだろう。英語が通じないのはバカだといっていたので、それだけで日本の素晴らしいおもてなしも含めて見下されてしまうのはとても残念なことだし、愛する日本を下に見られた気もして悔しさも感じた。なんとかして払拭したいという気持ちも確実にあった。

今後もインバウンド客は増え続ける一方だろう。日本のレストランやホテルの提供するサービスは世界トップクラスといっていいし、自分は日本人としてとても誇りに思っている。だが、英語が話せない、というだけでバカにされたり不満を持たれるのは問題だと感じた体験だった。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。