マット ゲイナー共和党議員の乱といってもよいのでしょう。共和党にはいわゆるかなり先鋭化した保守グループが20名程度いるとされます。共和党の運営はトランプ氏のスタイルに源流を持つこのグループの動向に振り回されてきた感はあり、共和党に所属するも実質的には党内での敵対関係という位置づけでした。
先鋭化という表現が正しくないなら「より原理的」といったほうが良いのでしょうか?妥協を許さないその姿勢は一部の人には心地よい響きになりますが、大衆一般からすれば異質でありましょう。
もともとアメリカの議会は上院、下院とも民主党と共和党が拮抗する関係する中、採決に当たっては極めて慎重な根回しが必要です。今回、ゲイナー議員が提出したのが先週の政府つなぎ予算に関し、共和党が民主党に妥協した形で成立したためでそれを取りまとめたケビン マッカーシー議長は適任ではないという理由で動議を起こしました。
個人的にこの動議が出されたことは知っていましたが、どちらかといえば共和党内部の話だろうと高をくくっていました。しかし、議席数が拮抗した中でこの解任動議について開票されると民主は下院議員の212人中208人が賛同、共和は221議席のうち8人が賛同し、形の上では共和党が出した解任動議に民主党のほぼ全体と共和党の強硬派が乗っかり、可決されたという形になっています。
マッカーシー氏は予算問題に関し、民主党と相当ギリギリの交渉を続けていたこともあり、民主党の受けは悪く、その余韻が冷めやらない中での今回の動議は勢いに乗じたところも無きにしも非ずです。
さて、ここからが問題です。まず、現時点では次の議長候補が不明です。2,3人の候補者の名前は上がっていますが、今年1月に15回も投票してようやく決めたマッカーシー氏でしたので簡単に次の議長が決定するのか現時点でその想像するのは難しいところです。
つなぎ予算は11月17日まで今からひと月ちょっとしかない中で連邦政府機関の機能停止を避け、予算が通るという見通しは暗いと言わざるを得ません。特に今回のつなぎ予算にはウクライナ支援が入っていなかったことが肝であります。この支援回避が密約であったとされますが、民主党はそれを否定するために「マッカーシーはウクライナ支援を外して酷い」と主張し、まるで三文小説のように「だからマッカーシー解任賛成」と動いたとの読みは正しいのかもしれません。
今後の影響について考えます。
ウクライナ情勢についてはアメリカが煮え切らない態度を続ける可能性があり、EU諸国のマインドにも影響を与えると思います。EUもポーランドやスロヴァキアなど近隣諸国の対ウクライナ支援の足並みが揃わなくなっており、近隣諸国が応援から迷惑というスタンスに変わりつつある点に着目しています。そこにアメリカが十分な声を出せなくなるならこれは戦況に大きな変化が起こりうるかもしれません。
もう1つはマネーマーケットです。アメリカに世界のお金が集まってくるという状況を作っているのは金利が高いことと絶対的市場規模とその安定感故であります。しかし、市場は債務上限問題のような国内政治のいざこざは避けたいというのが本音です。しかも今回の解任劇はアメリカ史上初であり、共和党強硬派の存在が改めて意識され、来年の大統領選を含め、アメリカの将来が予見できない事態になったとも言えます。その場合、潮が引くようにアメリカから資金を引き揚げる動きが出ないとも限りません。(ただし、引き上げてもその資金の行く先もありません。)
折しも株式市場は黒い雲が覆い、明るい話題が欠如しています。こういうのを「地合いが悪い」というのですが、こういう時に想定外のニュースが出ると〇〇ショックという形で具現化しやすくなります。
もともとアメリカの二大政党制度に私は批判的でした。政治後進国とも言えます。本来なら共和党の強硬派は共和党を出て第三極になるべきなのです。だけど、二大政党制度という仕組みが抜けられないアメリカでは第三極がどうやっても育たないのです。これも茶番といえば茶番です。我々はそんなアメリカのお茶の間劇場にお付き合いしなくてはいけないのかと思うといつまで我慢できるのか、そんなにいつまでもアメリカ一極主義は続かないとみています。パクスアメリカーナの終焉が無いとは言えない気もします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月4日の記事より転載させていただきました。