人工知能は誰の仕事を奪うのか?:『生成AIは電気羊の夢を見るか?』

生成AIはどれだけすごいのか。人間にとってどれだけ脅威なのか。

増田悦佐氏の新著『生成AIは電気羊の夢を見るか?』を読めば、その実態と実際が見えてきます。

増田氏は、この技術に関してとにかく「拙速」が目立つといいます。先端技術に拙速はつきものですが、生成AIに関してはそれがとくに顕著で、特定の業界を中心としていかに盛り上げようかという魂胆が透けて見えてきます。

その生成AIは、S&P採用銘柄の決算説明会で何千回と言及されてきていますが、近年言われているような「賢くなりすぎて人間に反逆する」ことではなく「自分では一生懸命に人間に協力しているつもりなのに、ときどき錯乱状態に陥る」ということが根本的な欠陥であるといいます。

具体的に「AIが錯乱するとはどういうことか?」は、本書を読んでいただく楽しみとして取っておいてもらうとして、今回は「われわれ日本の一般労働者はこの状況をどう受け入れればいいのか?」という点に注目したいと思います。

増田氏も分野を限定すれば生成型AIの進歩は目を見張るもの・有用なものがあると認めています。

長年AIを研究してきた人たちの理想には遠くても、調教の仕方さえよければ新しい文章、画像、音声を導き出すことができるようになったのは大進歩だ。

そして、今回の「技術革新」は、オートメーション化の対象がいわゆる低学歴の人たちの仕事だった今までの技術革新と異なった様相を呈しています。

生成AIはこれまで人間の仕事のオートメーション化の中で、ほとんど影響を受けていなかった知的能力にかかわる仕事のオートメーション化を画期的に進めるだろうと予測されている。

つまり、人類全体への影響は小さいものになりそうですが、大きなインパクトを与えるのは特定の業種になりそうだということです。

ホワイトカラーの最高峰ともいうべきマッキンゼー・グローバル研究所も言うように、

これまで4分の1とか3分の1とかしかオートメーション化されていなかっ大学院修士課程以上や4年制大学卒の仕事が一挙に50%台後半から60%までオートメーション化されてしまうというのだ。

知的能力を必要とするとされてきた仕事をしてきた人たちの中で、「紋切り型の知的ではない仕事しかできなかかった人たち」がふるい落とされるということになります。

これまた知的労働の極北であるゴールドマン・サックスの推定によれば、高給取りを中心に就業者の約4分の1が人員整理の対象になる一方、今後世界GDPは生成AIがなかった場合より約7%高くなるそうです。その中であげられている人員削減の恐れが少ない業種が今後の職業選択の方向性を占っているようです。

人員削減の恐れがいちばん少ないのは解体・整地作業従事者だという事実と考え合わせると、これは日本経済にとって大変有利な兆しだと思う。

わかりやすく言えば「若者よ、大工仕事を覚えておけ」(若者に限らないかもしれない)ということになります。

これはしっかりと覚えておいたほうがいい警告です。21世紀中盤にかけて人類に仕事の楽しさが戻ってくるかもしれません。

上記の事例に限らず、ビジネス・日常生活・芸術といったさまざまな視点から生成AIを分析し、その将来性を考えるヒントが、その軽妙洒脱な筆致とともに得られることでしょう。

AI デジタル コード

ebrublue10/iStock