日本の好景気に乗っている人、実感がない人

黒坂岳央です。

日本は今、空前の好景気である。

財務省の「法人企業統計」によると、2023年4-6月の売上高経常利益率は7.2%と過去最高を記録。税収は4月末時点で61兆5325億円で過去最高を更新中だ。総務省によると、2023年8月の最新版「完全失業率」は2.7%となっており、これは若者の20%が就職できないと言われている中国と比べてまったく異なる様相を呈する。

九州では次々と半導体企業が進出しており、円安享受で商社を中心にとんでもない金額のボーナスが出た!という話が踊りならぶ。日経平均は9月に33,000円の高値をつけ、バブル期最高値まで後15%というところまで来ている(10月は大きく下落したが)。

数値の上では日本は景気が良いということになっている。だがSNSの空気感は少し異なるようである。先日、Xの次のポストが大きな反響を呼んだ。

これは現在の好景気の波に乗っている人と、取り残されている人にわかれていることを示している。乗れている人、いない人の差を考察したい。

ASKA/iStock

投資をしている人、していない人

1つには投資をしている人は恩恵を受け、そうでない人は取り残されているどころか逆風が吹いている構図になっていると考える。

特に米ドル建ての株や債権、ドルを持っていた人たちは2021年は103円から、2023年で150円と45%も為替差益を享受している。これに株価の上昇を含めるとすさまじい利益となっている人もいるはずだ。日本株日経225への投資をしていた場合でも、26,000円から33,000円と26.9%上昇している。コロナショック後の数年間、投資家にとっては強い追い風が吹いていた。

しかし、日本人の多くは投資をしていない。日本で投資をしているのはわずか21.1%(野村総合研究所2021年時点)となっている。これは逆を言えば、78.9%の人は日本円にフルインベストメント状態ということだが、デフレ経済でそれは良くとも今は環境が異なる。円安で購買力の低下に加えて、インフレもある。過去記事で書いたが、新型iPhoneの発表の度にドンドンiPhoneは高嶺の花になっていっているのはその象徴といえる。だが事態は簡単ではない。金融リテラシー云々の以前に、軍資金余力がなければそもそも投資をする土俵に上がることができないからだ。個人資本の収益力を高める必要性は、かつてないほど高まっている。

企業収益力の高い、低い

これはサラリーマンについて言えるが、勤務先の企業収益力が差を生み出している。

筆者の妻の弟はITエンジニアの事例だが、新卒時の年収は飛び抜けて高くはなかった。しかし、企業の業績は右肩上がりに伸びていき、また彼自身のエンジニアとしての高いスキルが評価されたことで20代で1000万円を超えた。そこからさらに伸びて今では新卒時の4倍以上になっている。東証プライム上場企業なので企業業績を調べたら、株価も業績もすさまじい伸びとなっていた。昨今、インフレに連動して賃上げが進まないニュースが賑わせているが、景気のいい話もあるようだ。

一方でインフレによるアゲインストの風に吹かれる企業もある。筆者の知る地元の酪農企業がそれにあたる。牛や牛乳を販売するまでにかかるコストはうなぎのぼり。餌や燃料の高騰で給与アップどころか、社員やパート・アルバイトにやめてもらわなければ経営が成り立たない状態である。「牛肉や牛乳は安定しているから」と親の後継ぎで酪農家になったある男性は「まさしく青天の霹靂だ」と嘆いでいた。

「サラリーマンは安定している」という話があるが、給与は安定的に受け取れるという事実は間違いない。だが、雇用主である企業と経営者は安定などしておらず、常にリスクを取って不安定な経済界を生き残っている。母体が崩れればもはや安定ではなくなってしまうのだ。だからサラリーマンでも勤務先の母体収益力は無視できない要素だ。

かつての日本は格差が小さい社会を維持していた。悪く言えば高い能力を持った人が損をし、そうでない人には優しい社会と言える。だが現在の日本の所得格差は、すでにOECD平均(2023年2月)よりも高い水準にある。しかし、当の日本人でその認識を持っている人の割合は低い。現在の経済データ上の好景気の実感があまりないのは、まさしくその現れと言えるかもしれない。

 

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