「おれについてこい」みたいないわゆるワンマン社長というのは、かつての中小企業と比べれば減少したように感じます。ちょっとしたことでもパワハラ扱いされてしまうこのご時世、なかなか昔のようにはいきません。
とはいえ、やはり中小企業は良くも悪くも社長個人で成り立っているもの。パワハラになってしまったらアウトですが、ある程度のワンマン経営振りで業績を安定させてくれることは、社員にとって安心材料とみることもできます。
しかしながら、この自信たっぷりのワンマン社長に変化が起きたら注意が必要です。
「普段はワンマン経営、ワンマン社長。誰の言うことも聞かない頑固な社長が素直になったら危険の兆候といえる」と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。
あんなに頑固だった社長が素直になるなんて……
これは割と決定的なシグナルと見ることができます。社長って、基本的に頑固です。意思が強いともいえますが、自分がやりたいことがあるから会社を興すわけですし、我が強い人が多い。
もちろん、最近では「社員第一」という優しい社長も増えましたが、基本的には「自分で決めたい、自分がやりたい」人が社長なわけです。ですから、社内から提言があったとしても、結局社長の意見で決まる、みたいなことは普通です。
こんな唯我独尊な社長が、急に社内の提言を聞くようになったり、あるいは税理士や外部のコンサルタントの意見に素直に従うようになったら、少し危険です。なぜ、言うことを聞くようになるかと言えば、理由は二つ。
ひとつは、業績が芳しくないこと。
業績が思うように伸びなければ、やはりそこは社長といえども不安になります。自分がやっていることは間違っているのか? なぜ、これだけ経営努力をしているのに、業績が伸びないのか? と、自問自答が始まり、助けを求めるように他人に意見を求めだすのです。
二つめは、自信が失われているということ。
自信があれば、人の意見など聞かずとも会社経営はできます。業績不振なのか、はたまた別のアクシデントか? ともかく、普段は人の言うことを聞かない社長が素直にアドバイスや提言を聞くようになったとしたら、それはちょっと危険な気配と言えます。
これ、税理士からするとよくわかります。
一般的に税理士は、社長の相談に応えるのがひとつの仕事です。この場合の税金はどうなるんだ? これは経費になるのか? など、相談対応が日常業務になります。基本的に、税金絡みのアドバイスに関しては、社長は素直に聞く傾向があります。
税金のことがよくわからないからこそ、顧問税理士がいるわけで、お金に関するアドバイスは意外と素直に聞きます。
ところが、経営のことになると話は別。最近では「提案型」と言って、税務だけでなく経営に関するアドバイスをする税理士もいますが、社長からしたら「うちの業界のことは、俺のほうが良く知っている」「税理士に経営がわかるわけがない」などと一笑に付し、経営のアドバイスを素直に聞くってことはあまりありません。
そりゃ、経営しているのは社長自身ですからね。数字だけ見ている税理士になにがわかるって意見もわからなくない。
ところが、こういう社長が税理士に経営のアドバイスを求めだしたり、素直に助言を聞くようになってきたりしたら、前掲の兆候が現れているわけです。そういう意味では、顧問税理士に「最近、うちの社長の様子どうですか?」って聞くのは、シグナルをキャッチするひとつの方法なのかもしれません。
ところで、この「素直に聞く」のもうひとつ上のシグナルがあります。それは、「人を疑わなくなる」です。藁にもということで、盲目的に信じてしまうようになります。そして次です。
税理士依存、コンサルタント依存が始まる
「他人の意見を素直に聞く」の次の症状が、「税理士依存、コンサルタント依存」です。
業績不振からなのか、自信喪失からなのか、人の意見を素直に聞くようになり、それでも問題が解決されなければ、もう自分の意見なんて信じられなくなっていますから、今度は依存が始まります。そう、何を決めるにも「先生の意見を聞いてから」となるわけです。
「先生の意見を聞いてから」、自分で考えるのであればまだ良いですが、決定そのものを税理士やコンサルタントに求めだすとかなり危険水域です。
そして、さらに末期になると税理士やコンサルタントが悪いと言って、税理士を変更したり、別のコンサルタントに相談したりする。
こういうとき、案外厳しい意見は聞きません。
ある種の現実逃避なのかもしれませんが、例えば財務状況が深刻で、お金がない状態だったとします。こうなったら、例えば役員報酬を減らすとか、コストカットから考えるのが事業再生の基本です。
より深刻なときは、持ち家は売却して安い賃貸アパートに引っ越すとか、高級車を所有しているなら売却して少しでもお金をつくることに奔走する必要があるわけです。
でも、それはしたくない。なんとか自分の生活水準を維持しながら上手くいく一発逆転 の方法がほしい……まあ、「一発逆転」って言い出したら末期なんですけど、要は自分の望むような耳触りのいいアドバイスをしてくれる人を探すようになります。
「自宅はいまのままで、役員報酬もそのままでいけますよ!」みたいな人がほしいわけです。やっぱり一種の現実逃避ですね。
もちろん、耳触りのいい助言だけでは経営は立て直せません。そういう意味では、危険水域のときに、自分の身を切れない社長は窮地に弱いのかもしれませんね。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年10月4日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。