会社が倒産しそうになると、当然社長の表情にも変化が現れます。焦燥、憤怒…基本的にはマイナスの兆候が出てきます。しかし、ある時期を過ぎるとまた社長に変化が起こるのです。
「倒産が決まった会社の社長は、意外と明るい。」と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。
M&Aの情報を探し始める
社長ですから、それなりに会社の見通しは付きます。もしかしたら、割と早い段階で自分の会社に見切りをつけることもあるでしょう。そのひとつの方法に、M&A。自社を売却するという選択があります。つまり、最後に自社を売却してその売却益で資産をつくり、再起に賭けようという考えです。
ですから、社長からM&Aとか会社を売るような話題が聞こえてくると、会社がマズい状況である可能性があるわけです。ただ、実際問題としてはM&Aで会社が簡単に売れるかといえば、そうでもありません。傾きつつある会社なんて、基本的に誰も欲しがらないわけです。
末期になればなるほど、当然売れません。ですから、事業再生コンサルティングの世界などでも、実際は「身売り」っていう選択肢はあんまり選べないのが実情なんですね。
ほかにも、会社全体ではなくひとつの事業を切り取って売るという方法も考えられなくはありませんが、お金になる事業といえば、その会社の主要事業になるわけで、主要事業を失って上手く立て直すことができるのかといえば、やっぱりそんな簡単なことではないわけです。
個人資産の売却先を探し始める、売り始める
社長が個人資産の売却を始めたら、いよいよ本当にお金がない証拠です。前回書いたように、司法書士や行政書士、弁護士の出入りも増えます。不動産会社やよくわからない人たちが会社に出入りするようになります。絵画や彫刻のような美術品、個人の資産となるものはすべてお金に変えようとします。
ここまで来ると、必死なのはわかります。ポイントとしては、そのお金を何に使うのかということです。会社の立て直しのために使うのか?それとも、逃走資金に使うのか?社長が個人資産にまで手を付けるということは、本当に最後です。
倒産の実態を見るとわかることなのですが、実際は「自宅」って売りたくない社長が多いんです。成功して手に入れた「城」ですからね。だから、最後までしがみつく。自宅だけはなんとか確保したい。でも、破産となれば取られちゃうんですが……。
不動産なので、事業規模によってはその売却益で会社を立て直す可能性も出てきます。
でも、これがなかなか手放せないんです。
不動産を手放さないとなると、あとは車。そして美術品はなかなか売れない。そうなると、個人資産を売ったところで、会社を立て直す資金にはちょっと程遠いというわけです。
本当に潰れる直前の会社の社長は「明るい」
基本的に、会社が潰れそうになれば社長の顔色は黒く、そして表情も暗い。だから、社長を見るだけで「この会社、ヤバそうだな…」って感じることができます。一方で、ある一線を超えると潰れそうな会社の社長は明るくなるのです。それも弾けたように。
理由は簡単。もう諦めてどうでもよくなってしまったから。あるいは、夜逃げの準備ができて、あとは逃げるだけになったから。
前者は現実逃避。後者は昔の言い方で言うと「高飛び」ですね。目の前の負債、借金、給与の支払いから逃げられるとわかって、反動でハイになってしまうわけです。
例えば、ある税理士の話によれば、クライアントである顧問企業の社長が業績不振で倒産間近の憂き目にあっていた。どんな優秀な税理士でも、会社そのものが売上をつくれないのであれば、なかなか効果的なアドバイスもできません。
社長の顔色は優れず、借金の支払いに怯えていた。しかし、あるとき突然朗らかな表情に変わって、明らかにハイになっている。もちろん、業績は変わらずよくない。むしろ倒産のカウントダウンが始まっている。
そして、社長は突然いなくなったそうです。あとで関係者から話を聞くと、どうもそのハイになっていた時期は、会社に残っていた資金を個人的に入手し、どこか遠くの田舎に住居を確保し、あとは逃げるだけになっていたそうな……。
だから、暗くなっていた社長が、何の妙案も対策もないのに突然明るくなったら、最後の最後。しかし、突然ハイになるなんて、怖いシグナルですよね。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年10月5日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。