札幌五輪の断念:東京五輪の汚職で広告代理店が総崩れ

札幌が2030年の冬季五輪の招致を諦めることになりました。11日頃に正式発表があるようです。端的に言えば地元を中心とした世論が盛り上がっていないことと東京五輪の汚職に関する全貌解明にまだ時間を要すこともあるかと思います。汚職事件の総括、つまり裁判の結果を待つ中でどうやって五輪誘致を具体的に展開するか、厳しいと思います。

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特に広告代理店がまさかの博報堂まで絡んでいたこともあり総崩れとなり、いくら札幌市や地元財界が動かしたくてもキーになる代理店がいなければ仮に誘致してもその後の展開も苦戦すると思います。

また大阪万博の準備が非常に緩慢な状態になっていることも間接的には影響しているとみています。イベントもの作業は我々が思う以上に極めて困難かつ、周到な準備が必要となってきました。1972年に札幌五輪を開催した時は世の中はもっとシンプルでした。が、時がたつにつれ、イベントものの管理項目とそれに付随するコストは膨大なものになってきています。特に警備/セキュリティ関係は冬季五輪の2週間のために常設に近いセキュリティのインフラ整備が求められるでしょう。宿泊施設も不足する中、果たしてその投資が間尺に合うのかは大いなる疑問なのです。

五輪はそもそも成長過程にある国家で開催することによりその成長を促進させることが本来の意味だったのですが、開催候補地が少なくなり、成熟都市での開催が主流となり、五輪本来の趣旨から外れてきています。当然ながら収支でみれば成り立つほうがおかしいぐらいだと言えるのです。よって誘致はより政治的になりやすく、世論と食い違うことも多くなるわけです。

そんな中、今年の初め頃は札幌五輪は最有力候補でした。理由はその当時は他に対抗馬がソルトレイクシティぐらいしかなかったのです。有力候補の一つだったバンクーバーは早々に降りてしまっていました。ところが28年の五輪がロスアンジェルスなので30年のソルトレイクシティはいかにも近すぎるため、34年の方がふさわしいだろうとみられていました。消去法では札幌しかなかったわけです。ところが東京五輪の汚職問題がその頃、一番盛り上がっており、世論が冷え切っていたためIOCが「決定先送り」という猶予期間をくれたともされます。

とはいえ、世の中、魑魅魍魎とはこのこと。その猶予期間に26年の冬季五輪誘致に失敗したスウェーデンが再名乗りを上げたことでIOCとしてはより現実的な可能性があるとし、目線が完全に札幌から外れてしまいました。ただ、正直、スウェーデンが自主的に名乗りを上げたというよりIOCが30年の札幌開催を危ぶみ、スウェーデンに開催を打診したように見えるのでもしかするとその時点で出来レースとなっていたかもしれません。

なぜそうなったかといえば、汚職問題に絡みIOCに力がある日本人がいなかった公算は大いにあり得ると思います。元日本オリンピック協会会長の竹田恆和氏も東京地検から取り調べを受けた中で山下泰裕現会長以下の陣容は各スポーツ連盟の代表がほとんど。その中で副会長に元外交官で中国の大使を歴任した横井裕氏がいますが、IOCの政治は外交官の政治とは違う世界があるように見え、日本の五輪を持ってくるのは様々な外部環境も含め、容易ではないと察しています。

報道によれば札幌は34年以降の誘致に切り替える、としています。ただ、仮に30年にスウェーデンになれば34年はソルトレイクシティがほぼ当確になります。また噂ではIOCは30年と34年分の同時発表の可能性もアリとされます。とすれば札幌の34年の誘致はほぼ困難だろうと思います。その次の38年になるのでしょうか?ずいぶん先の話で地球温暖化がどうなっているか予想もつきません。また冬季五輪そのもののスタイルを抜本的に見直す案もあります。

個人的には日本でのいわゆる通常の五輪開催はだいぶ遠のいたと言わざるを得ないのではないかと思います。端的に言えば、網に入っていた魚が逃がしたのが今回の札幌の顛末です。

また、そこまでして日本で五輪を誘致したいのか、という世論の盛り上がりも無くなっている気がします。仮に38年となれば14年先であり、世代が一回りするわけでIT化に影響を受けた日本人はもっとクールになっているような気がします。

残念でしたが、やむを得ないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月8日の記事より転載させていただきました。