ウクライナ戦争は兵器の実験場に

どのような兵器も様々な実験を繰り返し、その性能をチェックしてからしか実戦には投入されない。平時は新兵器を実戦でテストする機会が余りない。ロシアはシリア内戦ではロシア軍需産業が開発した新兵器を積極的に導入してその性能をチェックしたという。だから、シリアは「ロシア兵器の実験場」といわれた。

ゼレンスキー大統領とドイツのショルツ首相の会見(ウクライナ大統領府公式サイトから、2023年10月5日)

ロシアのプーチン大統領は5日、外交政策専門家フォーラムで、「われわれは原子力推進の全球射程巡航ミサイル(ブレヴェストニク)の実験に成功した。これを受け、ブレヴェストニクと大型大陸間弾道ミサイル(サルマト)の開発を事実上完了し、量産化に取り組む」と発表した。この発表が事実とすれば、ロシアは遅かれ早かれ、その新兵器を実戦の場で使用することが予想される。もちろん、ロシアだけではない。米国でも同様だ。新兵器には実戦の場が不可欠だ。表現は良くないが、性能の高い新兵器を開発するためには戦争が必要となる、というわけだ。

ところで、ロシア軍が昨年2月24日、ウクライナに侵攻して以来、1年半以上の月日が過ぎたが、ウクライナは次第にロシアや欧米諸国の兵器の実験場となってきている。例えば、ドローン(無人機)が戦場で大量に導入されたのはウクライナ戦争が初めてではないか。ウクライナ軍の2基のドローンがロシアの中心、クレムリン宮殿にまで侵入し、モスクワはその対空防御システムの脆弱さを暴露させた。ドローンは製造が比較的容易ということもあって、イランは大量に製造し、ロシアに輸出していることが知られている。

高性能のドローンはターゲットを自動的に識別できるから、大量の高性能のドローン部隊の攻撃を受けた場合、防御は大変だ。軍事専門家によると、ドローンは半自律兵器と呼ばれている。米国のパトリオットミサイル防衛システムは、ミサイルの探索と発射に関して部分的に自律的だ。そして今後、完全な自律型兵器が戦場に投入されるのは時間の問題というのだ。

国連のグテーレス事務総長と赤十字国際委員会(ICRC)のスポルジャリッチ委員長は、人間の介入なしに目標を探し出して発射する完全自律型兵器システム(一般的にはキラー・ロボットと呼ばれる)に対して、共同声明で「人類を守るため明確な障壁を設ける国際条約が緊急に必要である」と述べている(ドイツ通信DPA)。

戦争は単純な武器、大砲などの通常兵器での争いから、大量破壊兵器が登場し、第2次世界大戦終了直前、米軍は2回、日本に原爆を投下した。広島に投下された原爆はウラン爆弾であり、長崎はプルトニウム爆弾だった。米軍は製造した2種類の原爆の性能、効果を戦場で確認しようとしたわけだ。

米国とソ連が対峙した第1次冷戦時代は、原爆が再度投下はされることなく幕を閉じた。ジョージ・W・ブッシュ米大統領時代の国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と主張し、「核兵器保有」の無意味論を主張した。それが第2次冷戦時代に入り、核兵器に触手を伸ばす国が出てきた。

そしてウクライナ戦争では大量破壊兵器に代わって、ドローン、キラーロボットといった人間の介入なく、敵の目標を探して攻撃する半自律型、完全自律型兵器が戦場で主役を演じる時を迎えようとしている。もちろん、キラーロボットの製造、使用を規制するために「自律型致死兵器(LAWS)の法的枠組みに関する交渉」はジュネーブの軍縮会議で行われているが、現時点では反対もあって成果はない。

現実のウクライナ戦争を振り返る。キーウ側は欧米諸国に武器の供与を求めてきた。例えば、欧州の大国ドイツは最初は防御用武器に制限(軍用ヘルメットなど)、その後、防御用戦車、攻撃用戦車「レオパルト2A6」、地対空防御システムなどをウクライナ側に供与したが、キーウが要求する戦闘機、長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与は依然拒否している。

明らかな点は、戦争が長期化すれば、高性能で破壊力の強い武器が求められる。また、戦争の当事国ロシアやウクライナにとって人的資源(兵士)は無限ではないから、ドローン、キラー・ロボットなどの半・完全自律型兵器が前面に出てくることが予想される。その結果、戦争は一層、残虐性を帯び、非人間的な様相を深める。この懸念は次第に現実的になってきている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。