川口市在住のクルド人について急速に関心が集まっている。
それは川口市議会でクルド人を念頭に置いた意見書が採択されることが確実視された(令和5年6月29日採択済)5月頃から始まり、とりわけジャーナリストの石井孝明氏が暴露したクルド人の実情は大きな反響を招いている。
しかし、情報が錯綜している印象があるので本稿で整理したい。
川口市議会は警察官の増員を求めている
「川口市のクルド人問題」を考えるうえでの基礎は、川口市議会で採択された意見書である。情報が錯綜し方向性を見失いそうになったらこの意見書を確認することである。
意見書にはクルド人を念頭に「一部の外国人は生活圏内である資材置場周辺や住宅密集地域などで暴走行為、煽り運転を繰り返し、人身、物損事故を多く発生させ、被害者が保険で対応する」と問題視し、その対策として「警察官の増員」「資材置場周辺のパトロール」「暴走行為等の交通違反の取り締まり」を求めている。
この意見書で目につくのはやはり「資材置場」の文言だろう。国籍を問わず資材置場を利用する人間は多数いるだろうが、資材置場は日常生活の施設ではないことは明らかである。だから長期間、利用しない人もいるだろうし、資材置場がどこにあるのかわからない人もたくさんにいるに違いない。
資材置場とは仕事の施設であり、その仕事は概ね建設業だろう。
資材置場と関わりがない人間が資材置場周辺で暴走行為、煽り運転を行うとは考え難い。
だから資材置場周辺で暴走行為、煽り運転を行う人間とは建設業に関わる人間である可能性が高く、意見書に基づいて言えば「建設業に関わるクルド人」である。
川口市議会は建設業に関わるクルド人の暴走行為、煽り運転への対策として「警察官の増員」などを求めている。
川口市議会は「部外者の介入」を求めている
意見書の提出は地方自治法第99条に規定された「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。」であり、主流を外れた政治家がなんとなくSNS上で情報発信しているものとはわけが違う。
一部国会議員が「川口市のクルド人問題」で一定の反応を示したのは川口市議会の意見書はそもそも国会や国・都道府県の行政機関に対して提出されるものだからである。
「部外者は川口市の問題に口を出すべきではない」という意見もあるが、的外れと言わざるを得ない。
クルド人問題は部内者(川口市民)だけでは解決できない域に達しているから川口市議会は意見書を採択したのである。
誤解を恐れずに言えば川口市議会は正規の手続きに基づき「部外者の介入」を求めたのである。
川口市立医療センター前の騒乱は情報錯綜要因である
偶然だろうが川口市議会の意見書採択(令和5年6月29日)から間もなくして川口市立医療センター前で100人程度のクルド人集団による騒乱劇が起きた(令和5年7月4日)
その原因は不明だが客観的事実としてクルド人集団の行動により、救急の受け入れが一時停止状態になり、生命の安全が害されたことと騒乱に参加したクルド人7名が不起訴になったことである。
川口市立医療センター前の騒乱は不明な点が多く、報道の限りで言えばその原因はクルド人同士の男女トラブルとも言われ、どこまで追及していいのかわからない。
原因不明な医療センター前の騒乱が「川口市のクルド人問題」の関心を大きく高めたのは間違いないが不明な点が多いため情報錯綜要因になっている。
こういう時こそ「川口市議会の意見書」に戻るべきである。
マスコミの記事はクルド人への偏見を高める
意見書をベースにマスコミ報道を見ていると違和感は大きい。
例えば現代ビジネスでは川口市のクルド人について複数の記事を書き、
その中で川口市で解体業を起業し同市のクルド人コミュニティのリーダー「ビックボス」と呼ばれる人物の取材に成功している。
内容は「ビックボス」視点での7月の川口市立医療センター前の騒乱の原因や彼の日本での苦労話、日本人住民の声として「地域に住んでいる我々にとっては、過激な排斥運動など、在日のクルド人と衝突をするのはやめてほしい。」などを紹介している。
記事を読んだほとんど読者はこの「ビックボス」はルール違反はしないという感想を持つだろう。
ルールを理解できる知性の持ち主だから「ビックボス」は異国の地で成功したのである。
しかし、川口市の意見書で想定しているクルド人は「ビックボス」のようなルールを理解しているクルド人ではなく、ルールを理解していないクルド人と考えるのが自然である。ルールを理解できる知性の持ち主は「暴走行為、煽り運転」なんてしない。
記事内に出てくる日本人住民はクルド人への「過激な排斥運動」には懸念するが、クルド人による暴走行為、煽り運転は黙認するというのも理解し難いことである。
また、この「ビックボス」という表現自体、クルド人への偏見を高めるだけだろう。
「ビックボス」は日本のルールをよく理解し、並の日本人よりはるかに優秀だろうが、「ビックボス」は日本在住のクルド人の代表者ではないし、法的にそのような代表者はつくることもできない。
「ビックボス」「コミュニティ」という言葉が繰り返されることで意識されるのはクルド人の「前近代性」だろう。
「クルド人は権限と資格が不明な『ビックボス』なる人物の指示にしか従わない人達だ」「クルド人は日本のルールより所属コミュニティのルールを優先する人達だ」といった感想を持たれるだけだろう。
川口市議会の意見書に回答すべきである
現時点で私達日本人が「川口市のクルド人問題」で行うべきことは川口市議会の意見書への回答、即ち「警察官の増員」「資材置場周辺のパトロール」「暴走行為等の交通違反の取り締まり」を行うか否かである。
この中で重要なのは「警察官の増員」なのは明らかだろう。
専門家の指摘によると警察官1人あたりの負担人口が500人程度確保できれば治安は維持できるとされるが、
(1)埼玉県警は636人であり、全国ワースト1位である
(2)「川口市のクルド人問題」ではそもそも「埼玉県警は少ない」という理解が必要である。
警察官が少なければクルド人がルールとの衝突・接近を自覚する機会が減るわけだから、彼らの違法・迷惑行為が増加することは不思議なことではない。
意見書は「地域の窮状を伝え緊急的に解決」の文言を用いて警察官の増員を求めている。この表現は極めて重い。
なぜなら警察官の管理は都道府県、その都道府県間の警察人員の調整を行うのは国(警察庁)であり、要するに市町村は警察官増員などの警察力の整備・強化に関与できず、治安上の責任を果たすことができないからである。
川口市議会は日本社会にボールを投げた(意見書の採択)。このボールを受け止め投げ返す(意見書に回答する)ことがクルド人問題に関心がある日本人の責務だろう。
もちろん筆者は埼玉県警の増員に賛成である。
そしてこのキャッチボールに「多文化共生」「悪いことは日本人もやっている」「クルド人は日本人がやらない仕事をやっている」といった主張は不要と考えるし、この種の主張こそが日本人と外国人の間の紛争解決を遅らせ、最悪、深刻化させると考える。
もっと言えば紛争発生の遠因となっていると考えるのは穿ち過ぎだろうか。
【参考資料】
(1)警察刷新に関する緊急提言「第9時代の変化に対応する警察を目指して」において
「警察官一人当たりの負担人口が500人となる程度まで地方警察官の増員を行う必要
がある。」と指摘
(2)「令和5年版警察のあゆみ」8頁
「4警察官1人当たりの負担状況(令和4年度条例定数)」を参照