先日、GMO副社長がインタビューにおいて「新卒に初任給として710万円支給している」という点に言及し話題となりました。
【参考リンク】「新卒年収710万円」の衝撃──GMO副社長が語る真意 基準は「総合商社」
数年前にファーウェイの日本法人が「初任給として月40万円出す」とぶち上げた時は令和の黒船かと話題になったものですが、いよいよ日本企業にも初任給見直しの波が押し寄せてきた格好です。
なぜ、今なのか。そして、初任給見直しがベテラン勢に与える影響はいかなるものか。いい機会なのでまとめておきましょう。
従来の“特別枠採用”とは何が違うのか
たぶん、記憶力の良い人なら、大手日本企業が数年前からぼちぼち始めていた新卒の特別枠採用を思い出したはず。
優秀な新卒者限定で通常の初任給の2倍以上を支払う特別枠のことですね。NECやソニーが有名ですが、リリース抜きで個別に打診するようなケースも徐々に増えている印象があります、
【参考リンク】NEC「新卒年収1000万円」の衝撃
従来の特別枠は文字通り特別な枠で、そのほとんどがコンピュータサイエンス等の最新の専門性を対象としたものでした。
通常の初任給(とそこからスタートする年功序列制度)というのは、組織の中に既にその道を究めたマスターがいることが大前提です。
だからおまえら大学出たてのペーペーは初任給から修行して毎年少しずつマスターに近づいていくのだ、というロジックですね。
でもAI界隈なんてそもそも組織の中にマスターなんておらず、大学出たての新人が最新スキルを身につけているわけです。そこである程度まとまった額を提示しないと相手になんてされるわけないんですね。
そういう意味では、今回のGMOの710万円は新卒採用58人のうち27人が対象ですから、特別枠でもなんでもないことは明らかです。※
筆者が注目したのもまさにその点で、特別だった待遇が普通のものに拡大しつつあるということです。
では、なぜそうなったのか。
「年功序列は割に合わない。最初からリスクをとって勝負したほうがいい」と考える若手が、一部の優秀層以外の普通の層にも急速に拡大している結果でしょう。
最近よく聞く「ぬるま湯に耐え切れず転職する新人」も、根っこは同じだと思います。
【参考リンク】大企業で若手の離職が増えているナゾ 不安が募る「ゆるい職場」とは
もう初任給からスタートする年功序列・終身雇用制度だと、並み以上の人を採るのは難しいし、採っても早期に離職される可能性が高いということです。
そうした流れを見極めたうえで「年功序列のメリットよりも、初任給から積んで見せたほうが採用で有利になるぞ」と判断する企業が出てくるのも当然ですね。
GMOに続く企業は今後増えると筆者は見ています。
「そんな腰の軽い新人はいやだ!うちは年功序列できっちり型にはめてやる!」
という会社の人も安心してください。
世の中には自分の実力で勝負したいって人ばかりじゃないですから。どっちかというと「自分の能力に自信がないので安定が欲しい」みたいな方が多数派ですから。
会社説明会で「うちは言われたことだけやってれば楽勝!」みたいな、いかにも仕事してなさそうなオジサンをしゃべらせとけば、そういう生き様に憧れる人材がいっぱい母集団を形成してくれるんじゃないですかね。
それで経営が安泰かどうかは知りませんけど。
※その他もほとんどが「地域No.1採用枠」なので一般的な初任給水準よりは高いはず。
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以降、
誰かの賃金が上がるということは、別の誰かが下げられるということ
新ルールで泣く人、笑う人
Q:「そごう・西武の労組はなぜ怒っているんでしょう?」
→A:「ガチで怒ってもたった一日しかスト出来ない自分達にじゃないですかね」
Q:「大病後に復職はどう配慮すべき?」
→A:「後遺症の有無で変わってくるでしょう」
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