こんな歩合給ならブラック企業!?(林 秀樹)

シェアーズカフェ

ブラック企業を象徴しているように見られる歩合給だが、制度自体が問題ではなく取り入れる企業風土や導入手法に問題があればブラック企業となる。

ではどの様な会社をブラック企業と疑うべきなのか? 見分けるポイントを3つ挙げてみよう。

(前回:ビッグモーターの異常なトラブルから考える、正しい歩合給

aa22/iStock

1. 違法な歩合給を導入していないか?

「歩合給は違法だ!」と主張する方がいる。正しくは「保障給のない完全歩合給は違法」である。なお「完全歩合給」とは基本給などの固定給が全く支払われず、給料の全てが成果に応じて支払われる賃金制度である。

そのような完全歩合給でも、保障給を適切に導入すれば合法だ。極端な言い方をすれば、基本給が0円でも即違法という訳ではない。

それでは保障給とは何か? 車の営業マンで例に上げたように、1台1000万円のベンツを売った営業マンが、売上の10%を給料として受け取る「完全歩合給」で契約していたとする。その月の給料は100万円だから悪くない契約だろう。

しかし翌月は運悪く1台も売ることが出来なかった。1台も売れなかったら支払う給料が0円で良いのか?当たり前だがこれは完全に違法だ。

今の日本の法律では、働いた時間に応じて一定以上の賃金を支払う必要がある。働いたのに全く賃金が支払われないことは違法行為だ。

しかしそんな完全歩合給でも保障給を設定すると合法になる。保障給については労働基準法第27条に記載がある。

「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」

この条文の出来高払制というのがいわゆる歩合給である。売上などの成果で賃金を支払うのは良いが、労働時間に応じて賃金保障を設ける義務がある。仕事をしたのに成果が上がらなかったという理由で賃金を支払わないことは違法と明確に定めてい。

歩合給に必要な保障給と最低賃金の関係

保障給の目安はどの程度で設定すれば良いのか? 実はこの目安は明確に定められていない。ただ、参考になる通達があるので紹介する。トラックドライバーなどの自動車運転者向けに出された平成元年基発第93条だ。

「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること」

成果が全く上げられなかった社員でも、通常の賃金の6割以上を保障することとしている。この通達は自動車運転者向けの通達だが、営業マンなどの他の職種の社員にも適用して問題ないだろう。

歩合給を導入している会社でも、賃金規程や雇用契約書で保障給の記載がない会社はブラック企業として疑って良いし、そもそも違法状態である。ただし、基本給などの固定給部分で通常の賃金の6割以上が十分保障されている場合は、保障給の記載が無くても問題がないのでその点は気を付けてもらいたい。

歩合給が違法かどうかを判断する際に、最低賃金額にも注目する必要がある。最低賃金は各都道府県で異なり、毎年10月前後に見直される。最低賃金を下回っている会社は違法状態である。そのような会社は当然ブラック企業だ。

2. 残業代をちゃんと支払っているか?

経営者と話していると、残業代に関して誤解が多いことに驚く。

「うちの会社は歩合給に残業代が含まれているから残業代は出ないよ」
「営業マンは時間に縛られない働き方だから営業手当を支払っている。これが残業代だからね」
「あなたの賃金は年俸制です。年俸制だから当然残業代は出ませんよ」

基本的には全て違法である。ただし、2つ目の営業手当を残業代として支払うという手法は、いくつかの条件をクリアして、適正に取り入れれば合法になる可能性を残すが、中小企業でそういった条件をクリアしている会社は圧倒的に少ない。

1つ目の手法は、トラック会社やタクシー会社で現在でも数多く取り入れられている手法である。ただ、令和5年3月10日の「熊本総合運輸事件」令和2年3月30日の「国際自動車事件」。この2つの最高裁判決で、立て続けに否定されたことを考えると「歩合給を残業代として支払っている」という会社側の主張は今後厳しくなると考えられる。

面接などの際に何らかの理由で「残業代が出ない」と説明を受けた場合は、よほどしっかりとした賃金体系を作っている会社でない限り、ブラック企業だと考えて良いだろう。

3. 誠実に自信を持って説明をしてくれるか?

1、2で説明した法的な側面は当然として、賃金は社員にとって生活を支える重要な労働条件である。その大切な労働条件の説明を疎かにし、質問に自信を持って答えない会社は信用できない。

会社の担当者は自社の賃金制度を理解して、誠実に説明をする義務がある。そして自社の賃金制度に関する最低限の勉強も必要である。

以前歩合給に関するある専門家の記事を読んだ。「基本給が低額だと、有給休暇を取った際に、有給休暇分の賃金が基本給部分しか支払われないので、社員は安心して有給休暇を取ることが出来ない。だから歩合給はダメなのだ」と書かれていた。

これは明らかに間違いであるし、こういった誤解をしている会社も多い。歩合給も賃金の一部なのだから、有給休暇を取得した際には歩合給部分も反映した金額を支払う義務がある。固定給部分だけを支払って、歩合給部分を支払う必要がないということは間違いである。

このようなことが賃金規程や雇用契約書に明確に記載されていて、質問をした場合に誠実に自信を持って答えてくれる会社は安心して働けるだろう。質問をしたときに明らかに不機嫌になったり、煩わしいといった態度を取ったりする会社はブラック企業だと考えて良い。

歩合給に対する正しい知識を身につけて、ホワイト企業で働こう

ブラック企業の象徴と考えられる歩合給だが、歩合給が悪いのではなく、その企業に問題があるということは分かってもらえただろうか?

自分の人生の貴重な時間を使って、縁があって働くのだから、今回挙げた3つのポイントを参考にしながら、あなたがブラック企業ではなく、ホワイト企業で働けることを願っている。

林 秀樹 社会保険労務士 林労務経営サポート代表 株式会社エンパワーマネジメント代表取締役
社会保険労務士。林労務経営サポート代表。株式会社エンパワーマネジメント代表取締役。1972年生まれ。2001年に社会保険労務士事務所「林労務経営サポート」を開業。2018年に人事コンサルタント会社「株式会社エンパワーマネジメント」を設立。訴えられない会社作りをモットーに、他の社会保険労務士が敬遠しがちな「運送業の未払い残業代対策のための賃金制度作成」「問題社員対応」等を得意とする。「1DAY就業規則作成サービス」を開発し全国各地に顧問先を持つ。上場企業で企業リスクに関するセミナー講師の実績も多数。
公式サイト http://hayasisupport.net/
Facebook https://www.facebook.com/hideki.hayashi.904108

【関連記事】

ビッグモーターの異常なトラブルから考える、正しい歩合給。(林秀樹 社会保険労務士)
ジャニーズ事務所・東山紀之さんのコメントは、テレビ朝日と日本テレビによる報道倫理違反の可能性がある。(中嶋よしふみ ウェブメディア編集長)
自社のジャニーズ報道を自画自賛する日本テレビが無責任過ぎて不祥事レベルの件について。(中嶋よしふみ ウェブメディア編集長)
過去最高の税収68兆円より社会保険料が多い理由。(中嶋よしふみ FP)
変動金利は危険なのか?(中嶋よしふみ FP)


編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年10月12日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。